「朝三暮四」って何?

池田 信夫


昔の中国でサル回しが、えさのドングリを買うお金が足りなくなったので「これからはドングリは朝に3個、夕方に4個にする」というと、サルたちは怒り出しました。そこで「朝に4個あげよう。夕方は3個だよ」というと、サルは大喜びしたそうです。このように目先の利益にとらわれて全体がみえないことを朝三暮四(ちょうさんぼし)といいます。

でもサルは本当にそれほど目先の利益に弱いんでしょうか? 池田新介さんの実験によると、目の前ですぐ食べられる2個のえさと、8秒待つと6個食べられるえさをサルにくり返し与えても、サルは目の前のえさのほうを取るそうです。つまり目の前のドングリは8秒後のドングリより3倍もうれしいのです。

消費税の8%から10%への増税再延期を発表した安倍首相も、納税者をサルみたいなものだと思ってるんでしょう。消費税を10%に上げるのは、図のようにもともと2015年10月の予定だったのですが、これを2019年10月まで4年ものばすと、税収は10兆円(赤の面積)ぐらいへります。


消費税率の推移(赤線はもとの予定)

でも政府から出ていくお金は変わらないので、へった分は国債を発行しないといけませんが、これを返すにはもっと増税が必要になります。今の政府の借金は1200兆円近くあるので、これを普通の水準に戻すには、消費税を25%ぐらいにする必要があるといわれていますが、増税を先送りすると30%ぐらいまで上げないといけないでしょう。

つまりいま延期した増税は将来の納税者が負担するのです。これは18世紀にリカードという経済学者が気づいて、中立命題とよばれています。だから政府支出を増税でまかなうのも借金でまかなうのも長い目でみると同じなので、消費者が合理的なら、増税を延期しても消費は増えません。

現実に、将来の大増税や財政破綻の不安があるので、個人消費はへりつづけていますが、安倍さんは納税者はサルだと思ってるんでしょう。もしかしたら、安倍さん自身が朝三暮四なのかもしれません。