自滅する選択―先延ばしで後悔しないための新しい経済学
著者:池田 新介
販売元:東洋経済新報社
(2012-05-18)
販売元:Amazon.co.jp
★★★★☆
「朝三暮四」という有名な故事があるが、猿は本当に朝三暮四なのだろうか。実際にそれを実験した人がいる。今すぐ食える2個の餌と、X秒待たないと食えない6個の餌を猿に繰り返し与え、Xの値がいくら以下のとき猿が6個の餌を待つかを調べると、平均7.9秒。つまり餌の価値は、8秒で1/3になるのだ。
このように消費財の価値が時間とともに急速に小さくなる現象を、行動経済学で双曲割引と呼ぶ。人間の場合はここまで近視眼的な行動はみられないが、選択肢が少し複雑になると、似たような現象はよく起こる。たとえば大阪大学の調査によれば、肥満者の比率と負債・ギャンブル・喫煙の比率を調べると、強い相関がみられる。つまり太っている人は、借金やギャンブルやタバコなどの「自滅的」な選択をする傾向が強い。
これは、太っている人は短期的な食事のメリットと長期的な肥満のコストを比較する合理的な判断能力が低く、刹那的な快感を求めるバイアスがあるためと考えることができる。こうした傾向は、多かれ少なかれすべての人にみられる。その原因は猿と同じで、進化の過程ではつねに飢えに直面していたので、食物があるうちに食わないと次にいつ食えるかがわからないからだろう。
本書は、こうしたバイアスを補正する政策として喫煙やギャンブルの規制を正当化しているが、似たような朝三暮四の行動はもっと広く見られる。200兆円の国債を発行して公共事業をやり、その負担は将来世代に負わせるとか、原発を停止して6兆円の損害を出すといった福島みずほ的な政策は、与野党を問わず広く見られる。
有権者が近視眼的であれば、政治家が彼らに合わせて自滅的な政策をとるのは合理的だ。その結果を有権者が甘受するならいいのだが、国債を償還するために消費税を上げると反対し、原発停止のコストを電気代に転嫁すると値上げに反対する。こうした時間非整合的な行動が、財政危機をここまで深刻化した。それが破綻するのは時間の問題だが、猿レベルの国民に同化した政治家が危機を収拾できるかどうかは疑問である。