舛添知事「公私混同」問題~正されるべきは“カネの入り”ではないのか?~

上田 令子

不倫問題が報道されている芸能人が、プロ野球の始球式に登場し、球場のマウンド上で謝罪したそうです。

これは彼としての謝罪の方法だったかも知れませんが、始球式という仕事の場で、観客や選手たち、球場関係者らを待たせてまで、私的な問題について謝罪するのは、公私混同ではないの?と思ってしまいます。

公私混同の4つの問題点

さて、昨日の代表質問、本日の一般質問と本定例都議会で追及が進められている、舛添要一知事の「公私混同」問題についてです。この問題は大きく分けて、

①高額海外出張費問題

②公用車使用問題

③政治資金の私的流用問題

④知事の資質問題

の4つになるとされています。

このうち、①高額海外出張費問題、②公用車使用問題については、知事就任後の都政運営にかかわる問題です。都市外交(都市間交流)について上田は知事就任直後から、一般質問、予算質疑、総務委員会質疑、文書質問などで、たびたび取り上げてきました。知事は「都市外交基本戦略」が策定し、27年度予算では知事外遊に2億4千万円が計上されましたが、執行額は5千万円余りに止まりました。ところが、28年度予算では3億3千万円に大幅増額されています。

予算が大幅に余れば、翌年度は厳しく査定され、未執行額程度は減額されるのが、お役所のジョーシキですが、減額どころか昨年度執行額の6倍以上に大幅に増額されたのです。予算が余っても増額されるのでは、財政規律は破綻してしまいます。潤沢に使えるお金があれば、ファーストクラスに乗ろう、スイートルームに泊まってもいいじゃないか、となっていくのです。そして、都民の血税であることを忘れて、無駄遣いに走るのです。

3月の予算特別委員会では、30億円とも40億円ともいわれている都立迎賓館(延遼館)計画なども含め、「都市外交」に綻びが生じている今、このままでよいのか、抜本的な見直しを求めましたが、知事からの答弁はありませんでした。(詳細こちら)

今に始まったことではない高額出張・公用車

実は、①高額海外出張費問題にしても、②公用車使用問題にしても、都政にとっては旧くて新しい問題なのです。石原慎太郎知事の2期目の終わりである10年ほど前には、以下のような問題が、再三、都政をにぎわせました。

石原都知事の豪華外遊

石原都知事 「公私混同」の勤務(公用車で映画見学)

ところが、自民・公明などの支援を受けて、19年に石原知事が三選されると、これらの批判は沙汰やみとなり、出張費の上限の厳格化の議論は曖昧なまま、放置されていきました。この時に、出張費をきちんと制限していれば、今回の高額出張費問題は防げていたかも知れません。

いずれにせよ、問題が起きていることから、都議会として質問権のほか、調査権、検査権、監査請求権などの権限をフル活用して、徹底的に実態解明と再発防止を進めていかなければいけません。

チェック不能の公金のしくみ

次に、③政治資金の私的流用問題についてです。

この問題は、海外出張や公用車と違い、舛添知事就任前の問題とされています。

これに似た例としては、14年に報じられた、元自民党幹事長の加藤紘一氏が資金管理団体の政治資金を流用したとされる問題があります。この問題は、加藤氏が衆院議員を辞職するとともに、背広代や飲食費、自宅マンションの光熱費を個人の所得として修正申告し、追徴課税に応じることで、立件が見送られています。

国会議員には、月額約130万円の歳費のほか、文書通信交通滞在費(月額100万円)が支給され、公設秘書3名が公費により賄われます。また、会派には立法事務費(月額1人当たり65万円)が支給され、国会議員5名以上の政党等には政党交付金が支払われます。

文書通信交通滞在費

立法事務費

政党交付金

文書通信交通滞在費も、立法事務費も、政党交付金も、国民の税金から全額支払われます。この点からしても、公金としての性格があります。ところが、文書通信交通滞在費や立法事務費は、使途の報告義務はなく、自発的に公開している一部政党を除けば、何に使おうと国民の目に触れることはありません。政党交付金は総務大臣への使途の報告義務はありますが、他の団体に寄付してしまえば、その後の使途は追跡が極めて困難です。要するに、「渡し切り金」なのです。

(これらに対して、都議会の政務活動費は1円から領収書添付で使途が公開され、都民の目に触れるほか、議会局によって使途のチェックがされています。勿論“クレヨンしんちゃん”は認められません。)

一方で、現在、問題になっている政治資金は、もともとは私的なお金と考えられてきました。企業・団体や個人から政治家が受け取った寄付やパーティ券収入を政党・政治団体の収入として報告させて、5万円以上(国会議員関係団体は1万円以上)の収支を公開することによって、国民の目に触れるようにしようとするものです。本来は、政治資金の原資は公金ではないので、私経済のものと捉えられ、使途に制約はなく、専ら関心は収入にありました。

平成6年の政党助成法の成立により、政党に年間300億円を超える政党交付金が国民の血税から投入されるようになりました。安定的な収入を確保した政党から議員や政治団体にお金が流れるようになりました。議員や政治団体にいったん、流れてしまえば、使途の追跡は難しくなります。

さらに、近年の新党ブームと相次ぐ解散により、本来は政党解散の時には残った政党交付金は国庫に返納しなければならないのに、解散直前に議員や政治団体に寄付することで、国庫への返納を逃れる動きが相次いでいます。

こうなってくると、公金である政党交付金が私的なお金とされている政治資金に適法に“マネーロンダリング”されることが常態化していきます。もっといえば、文書通信交通滞在費も、立法事務費も、政治資金にしてしまうことは事実上、現行法ではチェックできません。政治資金の原資が政党交付金などの、すなわち、公金であることを政治家本人や事務所・後援会・支援者が自覚し、自らを厳しく律していれば、加藤元幹事長や舛添知事のような問題は起きなかったでしょう。逆に、モラルハザードに陥った政治家が私的に流用したとしても、所得税の対象となる金額でなければ、「違法ではないが不適切」という判断にならざるを得ないでしょう。

最後に

④舛添知事の資質問題についてです。都議会の審議を待つまでもなく、「第三者」の元検事の同じ事務所に所属する弁護士の調査によって、「違法ではないが不適切」という判断になりました。このことは、舛添知事が就任前の一定期間、政治家として公金へのモラルを欠いていたことを示しています。

知事就任後の①高額海外出張費問題、②公用車使用問題においても、このような公私混同を招くような公金へのモラルを引き継いでいる結果ではないか、もしそうであるなら、年間予算13兆円余を預かる首都の知事としての資質を欠くのではないか、都議会の審議・調査等を通じて、都民の血税を守る立場から、全体を見通してまいる所存です。

 

上田令子 プロフィール

東京都議会議員(江戸川区選出)、地域政党「自由を守る会」代表、地域政党サミット(全国地域政党連絡協議会)副代表
白百合女子大学を卒業後、ナショナルライフ保険(現ING生命)入社後、以降数社を経て、起業も。2007年統一地方選挙にて江戸川区議会議員初当選。2期目江戸川区議会史上最高記録、2011年統一地方選挙東京都の候補全員の中で最多得票の1万2千票のトップ当選。2013年東京都議会議員選挙初当選。2014年11月地域政党「自由を守る会」を設立し、代表に就任。2015年3月地域政党サミット(全国地域政党連絡協議会)を設立し、副代表に就任。