8日の日経新聞に「三菱UFJ銀、国債離れ 入札の特別資格返上へ」という記事が掲載され、債券市場関係者を中心に衝撃が走った。これによると、三菱東京UFJ銀行は国債の入札に特別な条件で参加できる資格を国に返す方向で調整に入ったそうである。記事には「今回は財務省も資格の返上を受け入れる見通し」ともあった。
国債市場特別参加者制度とは日本版のプライマリー・ディーラー制度のことであり、一定の応札(発行予定額の4%)・落札責任が課されるが、国債市場特別参加者会合への参加資格や定率公募入札や買入消却入札への参加資格といった特別の資格が与えられる制度である。国債の入札はこの国債市場特別参加者(5月2日現在22社)を中心に行われるが、入札資格については246の金融機関が有している。
国債市場特別参加者の資格返上は過去になかったわけではないが、外資系金融機関に限られた。国内金融機関としては初の返上となる上に、かつては日本の国債市場の方向性を決めていたとも言われた三菱東京UFJ銀行であっただけに、債券市場関係者は驚いたものとみられる。
ただし、系列の三菱UFJモルガン・スタンレー証券、モルガン・スタンレーMUFG証券は資格を維持するようである。三菱東京UFJ銀行もかつては国債の落札額が大きかったが、ここにきては減少していた。三菱東京UFJ銀行の資格返上で、国債市場における業者の存在感が大きく低下するというわけではない。
そもそも業者と呼ばれる金融機関は主に証券会社を指すものである。しかし、国債市場における銀行の存在は極めて大きく、1985年に東証に日本初の金融先物取引である長期国債先物(債券先物)が上場された際にも、銀行には特別会員として売買の参加資格が与えられていた。銀行の証券子会社の設立等もあったが、国債市場特別参加者としても銀行本体は参加していたのである。
国債市場特別参加者22社のなかで銀行は、三菱東京UFJ銀行と三井住友銀行、みずほ銀行が参加している。銀行は自ら大量の国債を保有しており(だいぶ減ってはいるが)、業者というよりも投資家としての存在感の方が大きい。その投資家としては、日銀の異次元緩和とマイナス金利政策により、国債の保有額を大きく減少させていた。特にマイナス金利により、銀行が主に保有している中長期の国債利回りがマイナスとなってしまい、国債での運用がしづらい状況にある。つまり今回の三菱東京UFJ銀行の動きは投資家としての日本国債離れが意識されるものとなる。他の2つのメガバンクが追随したとしてもおかしくはない。
今回の動きは日本の国債市場が日銀トレードをしている業者と日銀、それにマイナス金利で運用可能な海外投資家だけとなってしまう懸念をより強めさせるものとなる。国債市場の流動性の低下とともに、将来の日銀の出口政策をより困難にさせかねないものとなる。いくら投資家は押し目買いを待っていると期待しても、国債市場の参加者の偏りは何かしらをきっかけとした国債の価格変動リスクを大きくさせかねないと思われる。
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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年6月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。