会社がお客様の立場になって考えることなどできない

皆さまは、コンサルタントと聞いてどのようなイメージを抱くだろうか。コンサルタントと聞くとあまり良い印象をもってもらえないことがある。脱税や金銭がらみ事件にはコンサルタントやコンサルタント会社が絡んでいることが多いからだ。

コンサルタントは何らかの利益をもたらす特定分野の専門家である。その道のプロフェッショナルだが意地の悪い人は次のように揶揄する。「そんなに儲かるなら自分の商売はさぞかし儲かるはずだ」「コンサルタントって偉そうにしているだけ」。確かにそんな人も多い。

小さな会社のオープンルール経営のすすめ』(同友館)の著者であるカカトコリ(本名は「林俊之」)は、経営コンサルタントである。セミナー講師や集客コンサルタントとしての知名度のほうが高いかも知れない。

この類の経営指南書は平易で読みやすいのが定番だが本書は総ページ数で341Pもある。通常の単行本2冊分のボリュームに加えて内容も奥が深い。薄っぺらい読みやすい経営指南書に慣れている人には少々インパクトがあるかも知れない。今回は、紹介されているケースのいくつかを紹介したい。

●なぜ専門職の日当は高いのか

皆さまは、経営コンサルタントのフィーの相場をご存知だろうか?私の感覚値だが、大手外資系ファームと称される会社は総じて高い。

大手外資系コンサルティング会社(時間)
・コンサルタント(リサーチャー)1~3万円
・マネジャー(課長クラス)3~5万円、
・パートナー(部長~役員クラス)5~10万円

大手日系コンサルティング会社(時間)
・コンサルタント(リサーチャー)5000~1万円
・マネジャー(課長クラス)1~3万円、
・パートナー(部長~役員クラス)3~5万円

※役職、金額についてはあくまでも記事用に整理したものである。会社によって役職や基準も異なるため比較は難しい。中小企業診断協会の報酬基基準は10万円(日)である。

参考までに、私が勤務していたコンサルティング会社では、@3万円(時間)、シンクタンクでは、@8000円(時間)のタイムチャージを加算していた。確かに安い買い物ではないから、成果が乏しければ批判を浴びてしまうことはやむを得ない。

カカトコリ(以下、林)は、専門職の日当が高い理由について次のように述べている。「本当に良い仕事をして、施主さんにも従業員さんにも楽しく仕事をしてもらうためにはそれなりの報酬が必要なんじゃないでしょうか ~中略~ そもそも、私は『下請け』という言葉が大嫌いです。現実として、世の中の97%以上が中小零細企業です。上場企業のような大企業でも中小企業の協力なくしては仕事が進まない構造になっています。」

そのうえで専門職が仕事をする際の懸念として、自社の利益を求めるばかりに長期的な利益を失っているところが多いとも述べている。これは分かりやすく説明すると、自社のキャパを上回る仕事を受注しても長い目で見れば利益にならないということである。「断ったら次の仕事が来ないかも知れない」という不安感から仕事を請けてしまうと大変なことになるという事例も紹介されている。

キャパが大きくなるということは発注量が増えることを意味する。発注側がボリュームディスカウントで値引きを要請してくる可能性もある。運良くいつもの価格で受注できる可能性もあるだろう。しかしこのようなケースでは様々なリスクを想定しなくてはいけない。

たとえば、ここにA社というキャパオーバーで受注した会社があったとする。従来どおりの価格で受注したが、売上が増えても利益が減少し資金繰りを悪化させてしまった。原因は、受注量に対応するだけのラインが整っていなかったことにある。ラインで対応できない量は、同業の別会社に外注することになったため外注費用が高くなってしまった。実際に、このようなことが起こり得るということである。

林は、このようなケースであれば、「仕事を請けない勇気も必要である。もし、請けるのであれば、仕事の価値を正しく伝えなくてはいけない」とも述べている。

●本日のまとめ

本書には、林の経営コンサルタントとしての経験や試行錯誤した事柄が審らかに語られている。一般のビジネスパーソンにも役立つエッセンスが多いが、むしろコンサルタントを本業にしている方にも参考になると思う。

最後に、林のメッセージを引用し結びとしたい。「よく、お客さまの立場になって考えろと言いますが、私に言わせれば、そんなのは無理です。お客さまの立場になろうとする時点で、売る側にいますから。それよりも効果的なのは、実際に自分がお金を支払う時の感情を意識してみることです。」

尾藤克之
コラムニスト