米シェール業者は最適者生存法則に基づき進化する

多くの方が、価格が50ドル近辺に戻ったので米シェールオイルの生産が増えるのではないか、と思われているだろう。先々週および先週、米国の稼働掘削リグ数が増加していることがその証拠ではないのか、と感じられている方も多いのではないだろうか。

筆者は、シェールオイルの掘削増→生産増の前に、種々契約上の義務もあり掘削済みだが費用がかかるので仕上げ作業を中断していた坑井(DUCという)からの生産開始が先にあるだろう、だからリグ数よりも生産量統計を注視したいと考えているのだが、本件に関しFTのEd Crooksが興味深い記事を書いている。それがこのブログのタイトル ”US shale oil producers evolve in survival of the fittest” (June 12, 2016 3:22pm) という記事だ。

「映画『ジュラシックパーク』の中でもっとも印象的なシーンは、恐竜ダイノザウルス・レックスが登場するとき、コップの中の水が静かにさざなみを立てるシーンだろう」という文章から始まっている。

続いて「世界中の石油生産者は、米国における掘削リグ数の増加は、まだかすかなものだが、近づいてくる脅威の不吉な前兆と見ているだろう」とくる。

うまいなぁ。
この記事が指摘しているように、米国のシェールオイル掘削用の水平掘りリグの稼働数はこの2週間で13基増えて262基になっている。今回の価格下落が始まった2014年11月は1115基だった。

だがこれは、生産増に繋がるものではない。シェールオイルの特徴は、手がけてから生産に至るまでの期間が短いのみならず、生産期間も短いのだ。1年も経つとピークを迎え、それから急激に減少し、それから少量生産が長いあいだ続く。したがって、現在の生産量を「維持」するためにも新規の掘削が必要というわけだ。記事の中でも、シェールオイルの減産傾向を「止める」には、追加の50~100基のリグ稼働が必要だとのウッドマック社の見解を紹介している。

先週ニューヨークで開催されたエネルギー会議で、米国の有力なシェールオイル業者であるPioneer Natural Resourcesの社長 Scott Sheffieldが語ったとされる価格見通しも興味深いものがある。

・長期的に原油価格は60ドル程度となろう。
・40ドルになったり80ドルになったりするだろうが、60ドル水準で動くだろう。
・如何なる産油業者も価格が常に60ドル以上でないと苦しい。

また、ゴールドマンサックスが先月「もし価格が55ドル程度だったら、カナダのオイルサンドや、西アフリカおよびメキシコ湾の深海プロジェクトなど、世界中で6600億ドルもの石油ガスプロジェクトの採算が取れなくなる、と指摘しているのも興味深い。

最も興味深いのは、シェール事業が技術革新とコスト削減を急ピッチで実現しているが、これは在来型の大型プロジェクトではすぐに真似ることができないと指摘している点だ。

なぜならシェール事業は、性格上掘削本数が多いので、改善策を研究しうる機会が多いのだが、在来型は巨額の投資が必要で、件数も少なく、それぞれのプロジェクトが特殊な要因を抱えているからだ。

記事は、2014年米国陸上では約3万7500本の坑井が掘削され、2015年以降活動量は減少しているがそれでも数多くの坑井が掘削されている、と、それだけ学習機会が多いことを指摘している。

この点は、BPのスペンサー・デールが「石油の新経済学」(2014年10月)でも指摘しているのだが、最大の問題は、アメリカ以外の国でもすぐに応用できるだろうか、という点にあると筆者は考えている。本件については『原油暴落の謎を解く』の中で詳述しているので参照してほしい。

Ed Crooksは、上記の議論を踏まえこの記事を、最優良なシェール業者は進化する勝者となるが「大手石油会社とメガプロジェクトこそがますますダイノザウルスに見えてくる」と締めている。

なるほど。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年6月13日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。