昨今、我らが舛添都知事が、フルボッコです。「違法ではないが不適切な支出」を繰り返し、税金を無駄遣いしていたことに、都民は激おこです。お前、セコいんだよ、と。
しかし、セコいことが本当の問題なのでしょうか。彼の不適切支出で返金することを言及したのは、数十万円規模です。おそらくはもっと多いので、数百万~数千万くらい「違法ではないが不適切」なものはあるかもしれません。
これは確かに都民や国民に迷惑をかけたわけですし、無駄にお金を使ったことは悪い事なのですが、このセコさを叩くあまり、実はもっと激しく都民にダメージを与えていることに、我々は気が付いていないのではないでしょうか。
【待機児童ナンバーワン都市、東京】
東京都は、言わずと知れた待機児童ナンバーワン都市です。そしてそれは舛添都知事もご存知で、だからこそ都知事選挙の時に、待機児童の解消を政策としてうたったわけです。
しかし、舛添知事はこの2年間、待機児童対策として、何か東京都独自の施策を打ち出したでしょうか?
残念ながら、答えは「何もない」です。
【東京都子供子育て会議において】
冒頭にも述べたように、僕は東京都子供子育て会議の委員として、「東京都子供・子育て支援総合計画」の策定に関わりました。これは国の子ども・子育て新制度に合わせて、自治体が策定しなくてはいけないもので、各地で会議体がつくられ、そこで地域ごとに異なる子育てニーズに対応し、政策を形作っていくはずでした。
僕は待機児童ナンバーワンであること、病児保育ニーズも最も強いこと、さらには虐待が大阪に次ぎ多いこと等など、東京の現状を把握し、それに対して国に先行して積極策を打っていくことを提言しました。
しかし、都官僚たちから返ってきた答えは、ほぼゼロ回答。僕だけではありません。多くの委員が、現場のニーズに基づいた提言をしていたにも関わらず、彼らは国のメニューをほぼ踏襲した、総花的ではあるが、十分に効果的とは言えない施策を、ほぼ決定の「たたき台」として羅列し、形だけの審議会運営を行ったのでした。
ある委員がたまりかねて、こう吠えました。
「この人たちは、ホッチキスなんですよ。こんな風に議論しても、まるで意味がない!」
ホッチキスというのは、国から降りてきた政策メニューを、自治体への説明資料とがっちゃんこするだけの役割、という意味ですね。何もやっていない都を痛烈に皮肉る発言だったのです。
通常、ここまで有識者会議の委員に手ひどく言われるシチュエーションというのは、あまり(というかほとんど)ありません。
しかし、そう言われても仕方がない状況が、実際にありました。しかし優秀な都の官僚が、なぜ「ホッチキス」しかしてなかったのでしょうか。それは、トップの優先順位にあります。
【首長の優先順位が、役人を動かす】
舛添都知事ご自身が、この子育て支援領域に対して、大きな関心を払っていなかった節があります。例えば、この子供子育て支援総合計画は、少なくともこれから5年の都の待機児童政策や、子育て支援全般の政策を規定するものですが、彼が子供子育て会議に顔を出したことは、ついぞありませんでした。
トップが目を光らせている会議と、存在も知らないような会議で、役人の方達の頑張りの差がつくのは、当然といえば当然です。
「会議に出なかったからと言って、優先順位が低いとは言えない。知事は忙しいわけだし」という反論もあるでしょう。では、舛添知事の視察履歴を見てみましょう。産経新聞によれば、舛添知事は54回の視察を行っていますが、保育園への視察は0回です。(7割が美術館と博物館)
参考)舛添知事、視察の7割超が展覧会 保育所・介護施設はゼロ
http://www.sankei.com/politics/news/160522/plt1605220007-n1.html
工場で特定の部品にものすごく不具合が多かった場合、その部品の製造現場に足を運ばない工場長はいません。問題解決のはじめの一歩は、何はともあれ、現場に行くことだからです。これで、十分すぎるほど、知事の優先順位が分かるでしょう。
【都知事が棒に振った機会】
もし舛添都知事が現場に行って、忌憚なく保育事業者や保育士たちの声に耳を傾けたなら、すぐに気づけたでしょう。保育士の処遇の低さと、それによる保育士人材不足が、保育園開園のスピードを鈍らせている、ということを。
そうしたら、東京都は国に先駆けて、「東京都保育士加算」を創設できたでしょう。例えば東京都で働く保育士に月額4万円上乗せして、全国の女性の平均賃金まで底上げしたとしたら。保育士不足の改善に相当なインパクトを与えられたでしょう。
東京都で働く保育士の数は、およそ3万人なので、年間で約144億円になります。これは、都の予算規模からいうと、0.23%です。「中小企業の総合的な支援」(3366億円)の4.3%です。都知事がトップダウンで優先順位を変えていたら、このレベルの予算は捻出できていたでしょう。
【我々が失ったもの】
我々は、この2年間の東京都の待機児童対策が無策だったことによって、幾千もの母親たちの雇用が失われました。「保育園があったら働けていた」という潜在雇用も含めたら、その数は桁が変わるでしょう。
セコいことは罪かもしれません。しかし、僕はセコくても、知事がやるべきことを、やるべき優先順位を持ってやっていたら、批判はしません。セコいことよりも、やるべきことをやっていないことで、我々は多くのダメージを受けたのです。
これは都知事1人に帰すべきものではありません。舛添都知事を支持した、都議会自民党、公明党の皆さんにも、責任を感じてもらいたいです。同時に、彼を選んだ我々東京都民自体が、単にセコさに怒るだけではなく、投票によって彼を選んだのだ、ということを、噛み締めなくてはなりません。
都知事を選ぶ、ということは、都の優先順位を選ぶということ。
それを今一度、我々は心に刻まなくてはならないのではないでしょうか。
編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2016年6月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。