大統領選のやり直しは不可避か

オーストリアで4月24日、大統領選挙(有権者数約638万人)が実施された。その結果、6人の候補者は得票率上位2人に絞られ、5月22日に決選投票が行われた。そして「緑の党」前党首のアレキサンダー・バン・デ・ベレン氏(72)が極右政党「自由党」候補者ノルベルト・ホーファー氏(45)を破り、当選。新大統領の任命式が来月8日に行われることになっていた。


▲オーストリア大統領選決選投票の最終結果(オーストリア内務省発表。2016年5月23日)

ところが、自由党は先日、不在投票の手紙投票の集計で不正があったとして152頁に及ぶ請願書を憲法裁判所に提出した。それを受け、同裁判所(ゲルハルト・ホルツィンガー長官を含む14人の裁判官で構成)は20日、証人を招き、審査を開始する。テーマは深刻だ。不正投票があったと判明すれば、大統領選決選投票のやり直しが不可避となるからだ。そうなれば、同国初の全国レベルでの選挙やり直しとなる。憲法裁判所は遅くとも大統領就任式2日前には決定を下さなければならない。

オーストリア高級紙プレッセは16日1面、2面を使って、憲法裁判所が決選投票のやり直しを求める可能性が高いと報じている。すなわち、大統領選はバン・デ・ベレン氏とホーファー氏の間で第3ラウンドが行われると予想しているのだ。

自由党によれば、57万325票の郵便投票分が選挙法を破り、投票日に開封され、集計されていたことが明らかになっている。その上、5万8374票が選挙権のない人間によって投票された可能性があるというのだ。選挙委員会関係者は「不正投票の規模の大きさにショックを受けている」という。

郵便投票数を集計する前段階ではホーファー氏が50.3%でバン・デ・ベレン氏49.7%をリードしていた。しかし、郵送投票分の集計後、バン・デ・ベレン氏が50.3%、3万0863票の僅差で逆転し、当選が決まった経緯がある。
郵便投票の集計段階でかなりの票が選挙法に違反して前日に集計されていたとすれば、不正操作が行われた可能性が排除できなくなる。郵便投票で1万5432票が不正だったと判明すれば、ホーファー氏が再逆転できるのだ。

一方、連邦選挙監視担当者は、「集計は正しく行われた。集計で違法な操作などなかった。自由党の主張を裏付けるものはない」と説明、選挙のやり直しは不必要と主張する14頁に及ぶ反対表明を憲法裁判所に提出している。

司法関係者からは、「選挙は民主主義の要だ。その投票集計に不正があったのなら、選挙のやり直しは避けられない」という声が出ている。また、郵送投票方式に改革の必要性を主張する関係者が多い。具体的には、①郵送分の集計を中央管理体制で実施する、②投票日に集計する、などだ。

なお、憲法裁判所が大統領選決選投票のやり直しを要求すれば、今秋に行われるという。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年6月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。