不良債権と正常債権の微妙な境目

金融規律の維持と融資条件の変更の可否とは、難しい関係にある。

かつて、「円滑化法(中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律)」というものがあった。これは、銀行等に対して、債務者の弁済能力に応じた融資条件の変更を求めたものである。

積極的な条件変更を、法律により、努力目標として規定することについては、金融規律を崩壊させる可能性があることから、反対が多かったのだが、民主党政権下、かの亀井静香先生の強い意思で、強行されたのであった。

期日に弁済をなし得ないおそれのあるところ、期日を変更することで、債務不履行の可能性を回避したときには、その条件変更によって、形式的に、融資の不良債権化を避けたにすぎないのであって、実質的には、不良債権化したともいえる。ところが、「円滑化法」のもとでは、法律が条件変更を積極的に推奨する以上、弁済期日を先送りにしたとしても、不良債権化は起きない。

さて、このようなことでは、金融規律を維持できたのだろうか。今、「円滑化法」が効力を失った後、巨額に累積した条件変更債権は、さて、どうなったのだろうか。

他方で、条件変更債権は、必ずしも、不良債権化を意味するものでもない。条件変更時において、債務者の弁済能力が確認されていて、単に、債務者の一時的事情を考慮し、債務者の利益の視点にたって、技術的に、条件変更するのならば、何ら問題はないし、それこそ、「円滑化法」が前提とした銀行等の社会的使命でもあろう。「円滑化法」の問題点は、単に、それを、法律の強制によって、実現したことである。

ところが、難しいのは、境目が明瞭でないことだ。条件変更債権のなかには、不良債権に分類せざるを得ないものと、そうでないものが混在するのである。もちろん、識別の基準は、銀行等の経営の良識において、即ち金融規律の厳格な適用において、なされるのである。

では、経営の良識による区別は、明瞭なのであろうか。もちろん、常に、明瞭でなければならないのだが、そのためには、銀行等の経営統治のありかたは、どうあるべきか。これこそが今の金融行政の焦眉の課題なのである。

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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