英国はキャメロン首相の大失策で大変な事態になっているが、日本では、経済的には大苦境に陥っても、政治的にはここしばらくは無風状態が続くだろう。
浮動票を握る人達の選択肢
参院選自体は、表面上は自公が有利に選挙戦を進めているように見えるが、最後まで帰趨はわからない。まだ態度を決めていない多くの人達は、
- 分からないから棄権。
- 経済が大変そうなので、取り敢えずは安定感のある自民党に入れておく。
- 安倍首相をあまりのさばらせては危険なので、今回はヤケクソで共産党にでも投票しておく。
の三つのどれかを選ぶだろう。
「自公とおおさか維新に合計で2/3を取らすと、彼等は改憲し、戦争に巻き込まれる危険が増すぞ」という野党側の宣伝に対しては、自公は「改憲は国民投票の過半数で決めるもの故、その時に徹底的に議論しましょう。野党は今の時点で1/3という数字に何故か異常に拘っている様ですが、まさかその1/3で国民の過半数の願いを圧殺しようとしているのではないでしょう?」とやりかえせばよいだけの事と思うのだが、それがうまく行かず、多くの人達が上記の3)に走る事もあり得るだろう。こうなれば、取り敢えず「即時改憲」のシナリオは消える。
しかし、その場合でも、安倍政権はビクともしないだろう。仮に相当手ひどく負けても、衆参のねじれまではいかないだろうから、経済政策は好きなように進められるし、集団安保法制は既に成立しているので、これに基づいた施策を粛々と進めれば良いだけの事だ。
野党が、もし愚かにも「安保法制廃棄」の議案を国会に提出してくれれば、これは自民党にとってはもっけの幸いだ。野党が提出した議案だから、議場占拠も牛歩戦術もないので、すんなりと否決し、これで免罪符が得られる。あとは司法判断しかないが、誰かが違憲訴訟を起こしても、最高裁では恐らく採択されないだろう。
第二のシナリオ
逆に、改憲勢力が参院で2/3以上となれば、改憲議論が本格的に始まるだろう。民・共連合が、前回で味をしめた(と思っている)「戦争ハンターイ」という古式豊かな街頭デモを、再び繰り広げてくれると、改憲の内容についての議論に緊張感が出てきて大変良い。
私の様に「9条2項だけはどうしても削除せねばならないが、他の条文はあまり変えない方が良い」と考えている人間は、「日本のこころ」とやらを強調する「現在の自民党(日本会議?)案」に対する「対案」を出して、「まともな改憲」への流れを作り出せる。この議論は、右と左に偏った人達を排除して、日本を「普通の国」にする為の重要な議論になる。
こういう動きになれば、民進党は恐らく分裂するだろう。共産党との共闘体制(「戦争ハンターイ」体制)を是としない人達は新党を作り、しばらくは「おおさか維新」などと並存して、是々非々で与党に協力したり反対したりしながら、自民党内部に安倍首相に批判的な勢力が育ってくるのを待つだろう。残留部隊は社民党と合流して、政権への参画にこだわらない「クラシックな左派」になればよい。
もし共産党に野心があれば、或いはアカハタの売上減少で彼等の危機感が増せば、彼等も「大衆党」等という名前に党名を変えてイメージチェンジを行い、上記のクラシック左派を吸収して、一大勢力にのし上がることを考えるかもしれない。しかし、何れにせよ、現在の日本では、こういう政党が国会で20%以上の議席を持つことは難しいだろうから、所詮は定席の外野席で声をあげているしかない。
政策運営
こうして、何れのケースにおいても、国内の政局は無風に近い状態にとどまり、ここしばらくは安倍首相の一強体制が続くだろう。
しかし、現在の激変しつつある世界情勢の荒波の中では、残念ながら、日本の経済と安全保障体制は小舟の様に翻弄されるだろう。トランプ政権が生まれようと生まれまいと、これまでは安定していた米国との関係がかなり不安定になるのは避けられないから、引き続き不安定な対中関係や、難しい沖縄問題とのバランスを取るのに、政権の苦悩は尽きないだろう。
国民はどうすれば良いか? この状況下で手綱を操れる人は、取り敢えずは安倍首相以外にはいそうにないから、当面は彼に任せるしかない。しかし、「既得権の粉砕」だけはどうしてもやらなければ、日本経済はもはや持たないから、この一点については、安倍政権を叱咤激励する声が、鼓膜が破れるぐらいに大きくならねばならない。
後は、党内では小泉進次郎さん等の若手が声をあげて、世代間のアンバランスを本気で正し、党外では「おおさか維新」が「地方分権」で新機軸を出していく事によって、政治を活性化していくしかない。安倍さん自身が「同一労働、同一賃金」という超ドラスティックなテーマに本気で取り組むのも、とても良い事かもしれない。しかし、間違っても、荒波に翻弄される小舟が、転覆しない事だけは祈っていたい。
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