講師として登壇する原氏。
デフレをよそに、企業内研修の市場が堅調である。市場調査会社の矢野経済によれば2014年度は前年比101.5%の4,860億円。中堅・中小企業のサービスの利用が増えているそうだ。今回は、中小企業診断士として研修講師や講演などをおこなっている、原 佳弘氏(以下、原)に研修業界の実際に聞いた。
●企業が研修をやる真の目的
――研修に対する認識は人それぞれである。「この忙しい時に冗談ではない」「そんな金あるなら給料にまわしてほしい」。それでも企業は研修に予算をかける。その理由はについて、原は次のように答えている。
原 それは、企業には目的に応じて、理解してもらいたいこと、スキル向上を目指してもらいたいことがあるからです。最近は人事部の人手不足という状況が、人材育成により一層力をいれる理由にもなっています。
――また、企業内研修の鉄板メニューの一つに、営業マン研修がある。営業マン研修は好業績者の成功体験を抽出して商品化している。受講者は成功体験をロールプレイするので一定の効果があるといわれている。ところが成功体験の模倣には危険な側面も存在する。
原 実績を上げてきた営業マンは2種類あります。一つはプラス思考で全く動じず成果を出すタイプ。もう一つは営業スキルが高く容易に結果を出してしまうタイプ。両者とも「優秀な営業」として評価することができます。特に営業スキルを習得している営業マンは表面上であったとしても、無難に相手との折衝をこなします。しかし、表面上を無難に対応することで、本質が理解できなくなる危険性をはらんでいます。
――営業マンが自らのスキルを磨き向上することは、ある意味必然と考えることができる。スキルを磨くことで折衝力を高めて成約率をUPさせるためだから当然である。これについて、原は次のような見解を示している。
原 理論やスキルでガッチリ固めてしまうことの弊害を考えるべきです。経験もなしに机上の空論を固めても得策ではありません。営業マンがリアリティを実感するには、様々な現場での経験をしなければいけません。「いま忙しいんだ」「二度と来るな」「費用が無い」、などの筆舌に尽くしがたい経験をすることで経験値はUPしていきます。これは他の研修にも言えることです。このような経験をしたうえで理論やスキルを学ぶのと、理解せずに学ぶのとでは成長が違うと思います。また研修の効果を確認するには検証作業が必要です。
●本日のまとめ
――ウィスコンシン大学名誉教授である、カークパトリック博士が提唱した研修効果測定の4段階説によれば、第1段階では「受講者はプログラムについてどのように感じたのかを具体的に評価する」、第2段階では「受講者が提示した学習内容を理解し習得したかを評価する」、第3段階は実行レベルとして「実務においてどの程度反映されているかを評価する」、第4段階で「パフォーマンスが成果に寄与しているかを測定する」とされている。さらに、研修の当日よりも、研修前、研修後の方が、研修効果に与える影響が大きいことも示唆されている。この点について、原は次のように答えている。
原 多くの場合、研修当日にスポットを当てて準備や企画を練りこんでいます。実は、それは集中すべきところがズレてしまっている可能性が高いのです。研修前とは、受講生に研修目的や意図、戻ってからの現場での活用方法や期待を伝えること。研修後とは、研修で学んだことを上司やメンバーと共有し、どのように実践していくかを計画していくことなどを指しますが、あまり上手く検証ができているとは言えないでしょう。
――また研修効果の限界も知らなくてはいけない。一般的な集合研修では、人は変わらないし変容もしない。受験者が実施の意図を理解せずに、効果測定や評価項目のない研修で行動変容することを期待してはいけないのである。ゆえに研修効果を高めて浸透させるには企業としての叡智が必要になる。
最後に原のメッセージを引用し結びとしたい。「研修は、人に知識やスキル、やる気を与えたり、はたまた人生の転機となるきっかけを与えるなど、その役割は幅広くやりがいがあるものです。受講生のみならず、組織や会社全体にインパクトをもたらすことさえあるのです」。この機会に自社の研修について振り返ってみては如何だろうか。
参考著書
『研修・セミナー講師が企業・研修会社から「選ばれる力」』(同文舘出版))
尾藤克之
コラムニスト
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