人事部長がAIになった時に読む話

城 繁幸

今週のメルマガの前半部の紹介です。先日、こんなニュースが話題となりました。

AIで人事部いらず? データで最適配置

今後20年で人間さまの雇用を半減させる可能性もあるとされるAIですが、奪われるのは単純労働ばかりではありません。トレーダーや公認会計士、医療技術者といった専門職も対象に含まれるとの予測も出始めています。

基本的に数値化してデータ集積出来る作業であればAIでも出来るわけですから、人事の仕事ももちろん対象に含まれるはず。というわけで筆者自身、AIは人事制度に大革新をもたらす可能性があると大いに期待しています。

とはいえ、こと日本企業に関して言えば、AIを活用する前に組織として乗り越えねばならない大きな壁があるとも見ています。その中で、個人レベルでもものすごく大きな意識変革が必要となるでしょう。

というわけで今回は人事とAI、そして個人のキャリア戦略について考察してみたいと思います。

筆者がAIに期待するメリット

筆者がAIに期待するメリットは、まずなんといっても「透明性の確保とマネジメントレベルの底上げ」です。

評価制度の最大の肝は、評価基準の統一です。たまに100%客観的な基準が必要みたいなことを言う論者もいますけど、そんなのはそもそも実現不可能であり、主観的であっても一つの基準で統一されているかどうかが重要なわけです。

さて、従業員数100人くらいの企業ならトップが全員の評価を直接見る、なんてことも可能ですが、それ以上の規模の企業になると、部課長といった中間管理職がそれぞれ10人くらいのユニットごとに査定をし、それを全体で積み上げることで組織全体の人事を回します。

つまり、各管理職の基準のすり合わせがとってもとっても重要になってくるんですが、これが極めてハードルの高い作業なんです(笑)

実際にそうした管理職同士の調整会議みたいなものはどこの会社でも行われますけど、たいてい揉めに揉めるものですね。それで最後は結局ベテランや声の大きな管理職が勝ってその人の部署にだけ高評価が集中、なんてことが日常茶飯事なわけです。特に2、30代のうちは、部門内で有力な上司の下に就けるかどうかは、出世を左右するとても重要な要素だと筆者は思います。

あと、配属先も重要ですね。斜陽部門だとそれはそれで問題ですが、重点的に人材が送り込まれる成長部門にも問題はあります。ライバルが多すぎるから評価や昇格でむしろ不利になる面があるんですね。5年に一人くらいしか新人配属されない内勤出身者が同期再先発で課長になったり、気が付いたら役員になってたなんて話は結構あったりします。

筆者はよく「日本企業での出世は運次第」と言いますが、それは上記のような理由があるからですね。

ただ、AIなら、組織がどれほど大きかろうが、声のでかい部長がひしめいていようが、神の目で組織全体を見通し、完全に統一された基準で、しがらみに左右されることなく評価を下せるわけです。これほど透明で分かりやすい基準は無いですね。そういう基準に基づいてマネジメントするわけですから、従来は「俺が法だ」とか「俺も納得できないけど人事がそう言ってたから」で済ませてた管理職のマネジメントレベルも間違いなく底上げされます。

それから、2つ目のメリットとしては「セクショナリズムが薄れ、人材の効率的な配置が可能になる」というのもあります。やはり従来の人事制度のままだと、人材は部門ごとに部門内で育成するのが基本ですから、組織全体から見るとあんまり合理的な配置ではなかったりするものです。

たとえば、ある部門から他部門へ業務移管する際に、ピカイチの人材は出さなかったり、逆に持て余し気味の従業員をここぞとばかりに押し付けるようなケースは枚挙にいとまがありません。メガバンクや総務省の“たすき掛け人事”も不合理な人材配置の典型ですね。

これも、AIが組織全体を俯瞰して適材適所の配置案を出してくれれば即解決。余計なしがらみにとらわれず戦力最大化を図ることが可能となるはずです。

と、まあこんな具合に、AIは日本企業のマネジメントに一大革新をもたらす潜在能力を秘めていると思われます。でも、筆者は同時に、それはパンドラの箱を開けることになるだろうとも予想しています。

要はAIというのは、個人の生産性や適性を見極めた上で処遇や配属先を決めるわけですけど、それらは永遠にブラックボックスの中に入れたままにしておかないと、終身雇用なるものは維持できないからです。

以降、
はっきり言うと、評価の9割は〇〇で決まります
終身雇用という物語の終焉と再生

※詳細はメルマガにて(夜間飛行)


編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2016年7月7日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった城氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。