18歳投票率51%とノルマ達成、次は大人が応えろ!

投票率51.17%は、前回の40代レベル。18歳はノルマを達成

 

参議院選挙投開票日翌日の7月11日、総務省から18歳と19歳の投票率が発表された。

18歳の投票率は51.17%と、既に発表されている全世代による投票率54.70%と比較しても遜色のない投票率であったことが分かった。

個人的にはこれまでも「大事なのは投票率ではなく投票の質」と言い続けてきたように、18歳選挙権の本質ではないとは思っているが、一方で、今回の参院選では、これまで掲げることのなかった「被選挙権年齢引き下げ」が与野党各党の公約となるなど若者を意識した政策がいくつも掲載された。こうした状況は「18歳選挙権バブル」であり、今回の参議院選挙が終われば、そのバブルは崩壊する可能性が高い。ただこのバブル崩壊のスピードを変えることはできる可能性はある。

今回18・19歳の投票率が極めて低かった場合、「18歳に選挙権を与えるべきではなかった」などといった声が上がらないとも限らない。

その意味では、世代別投票率は、サンプル調査であり、特に今回の速報はそのサンプルの取り方も含め、どれだけ正確かどうかはあるが、今回18歳の投票率が51.17%だったことは、若者は少なくとも最低限の暗黙の「ノルマ」をクリアーしたと言えるのではないか。

 

図表1: 世代別投票率(2013・2016年)

 

一方で、今回の18歳の投票率51.17%に対し、19歳の投票率は39.66%であり、18・19歳を合わせた10代の投票率は45.45%だった。今回の速報は18・19歳だけであり、まだ他世代の世代別投票率が出ていないため、2013年の前回の参院選の世代別投票率と比較してみる。

単純化して言えば、19歳の投票率は20代の投票率を超え、10代の投票率は30代の投票率超、18歳の投票率に至っては前回の40代と同等ということになる。

 

 

10代の投票率に限ると、低いほど投票率が上がる

 

18歳選挙権実現前から、マスコミなどからの「18歳選挙権は投票率を上げますか」などといった取材に対して、常に「投票率は下げると思います」と答えてきた。

その根拠は、平均投票率を上げるためには、18・19歳の投票率がその他の投票率の平均より高くならなければならないからだ。

これまでも世代間格差の要因などとして高齢者の声を過度に反映するシルバー・デモクラシーの問題などを紹介してきたが、年齢が高いほど投票率が高いという構造は、決して日本だけではない。

以下は、2014年にドイツに視察を行った際に、州選挙について16歳選挙権を導入して初めての選挙となったブランデンブルグ州議会選挙の世代別投票率である。

この選挙でも世界の例外でなく、高齢者ほど投票率が高く、若くなるにつれて投票率が下がっているのだが、10代に限定すると、逆に年齢が低いほど投票率が上がっていることが分かる。

 

図表2: ブランデンブルグ州議会選挙年代別投票率(2014年・ドイツ)

 

実際にこの選挙の若者の投票率を見ると、25-29歳      で30.1%だったものが、21-24歳で26.2%に下がり、18-20歳で34.0%に上がると、16-17歳では41.3%にまで登る。これは35-39歳の41.7%とほぼ同じ数字である。

選挙前から、こうした形で、20歳より19歳、19歳より18歳と投票率は逆に上がると言ってきたが、まさに絵に描いたように同じようなグラフの形となった。

 

 

両親が投票すれば子どもの投票率は71%になる

 

以前にも『両親さえ投票に行けば、子どもの投票率は71%になるが、大事なのは投票率じゃない』( http://blog.livedoor.jp/ryohey7654/archives/52035860.html )とコラムでも紹介したが、2009年のデンマークの地方選挙で200万人を超える有権者を対象とした分析調査では、両親ともに投票に行くと、両親と同居している子どもの投票率は71%にまで上がるとの結果が出ている。

ちなみに子どもは女性だと73%、男性69%と女性の方が高くなるのだが、絵に描いたように今回の日本の参院選の結果でも18歳では女性53.01%に対して男性49.43%、19歳でも女性42.11%に対して男性37.31%と、同じようにそれぞれ4〜5%女性の方が投票率が高いという結果が出た。

ヨーロッパ等における先行研究では、若年投票率については、上記で紹介した親との同居率や両親の投票率の影響などの影響が最も強く、その他には政治教育などの要因があるとされている。

その意味でも、日本の若年投票率は今回、ほぼ投票の仕方を伝える程度だった政治教育をシティズンシップの養成へと舵を切って、質を高めていけば、さらに高まる可能性もある。

 

図表3: 親との同居や親の投票と子どもの投票率との関係

 

 

投票率を上げたければ、「選挙権年齢をさらに下げろ!」

 

今回の18・19歳の投票率は、平均投票率は下回ったわけだが、「18歳選挙権」自体が投票率を下げたというわけではなく、むしろ「選挙権年齢を引き下げれば引き下げるほど投票率が上がる」という可能性について紹介しておくことにしたい。

1点目は、既に紹介した通り、10代に限定すると年齢が下がるほど投票率が上がるということである。このことによって、初めて選挙権を得た新有権者の投票率自体が単純に上がることが挙げられる。

次に2点目として、有権者においては、初回に投票に行くと、その後の投票率が高いという傾向があり、初回投票率の向上は、今回の選挙に限らず、今後この世代の年齢が上がっていくにつれて、徐々に少しずつ上の世代の投票率を押し上げていく仕組みになっている可能性があるのだ。

こうしたことから考えると、極論で言えば、明推協は投票率を上げたいのであれば、するべきことは「ティッシュ配り」ではなく、「さらなる選挙権年齢引き下げ」なのではないかということも提案しておきたい。

 

図表4: 参院選の世代別投票率の推移

 

少なくとも今回の10代、とくに18歳の投票率は、これまでの各世代の投票率の推移と比較しても、充分にノルマはこなした。これでもう足を引っ張られる必要もない。

若者は応えを出したわけだ、次に応えなければならないのは大人たちなのではないだろうか。

今回の18歳選挙は、若者参画社会実現の最初のキッカケに過ぎない。

個人的には、これまでも言い続けてきたように、大事なのは投票率ではなく投票の質であり、さらに選挙以外の参画の仕組みも含めた民主主義の質の向上である。

このことを貴重な経験として積み上げ、「被選挙権年齢の引き下げ」、「政治教育の充実」など二の矢、三の矢と実現させていきたいと思う。

 

高橋亮平(たかはし・りょうへい)

中央大学特任准教授、NPO法人Rights代表理事、一般社団法人生徒会活動支援協会理事長、千葉市こども若者参画・生徒会活性化アドバイザーなども務める。1976年生まれ。明治大学理工学部卒。26歳で市川市議、34歳で全国最年少自治体部長職として松戸市政策担当官・審議監を務めたほか、全国若手市議会議員の会会長、東京財団研究員等を経て現職。世代間格差問題の是正と持続可能な社会システムへの転換を求め「ワカモノ・マニフェスト」を発表、田原総一朗氏を会長に政策監視NPOであるNPO法人「万年野党」を創設、事務局長を担い「国会議員三ツ星評価」などを発行。AERA「日本を立て直す100人」、米国務省から次世代のリーダーとしてIVプログラムなどに選ばれる。テレビ朝日「朝まで生テレビ!」、BSフジ「プライムニュース」等、メディアにも出演。著書に『世代間格差ってなんだ』、『20歳からの社会科』、『18歳が政治を変える!』他。株式会社政策工房客員研究員、明治大学世代間政策研究所客員研究員も務める。

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