【映画評】ファインディング・ドリー

渡 まち子
カクレクマノミのマーリンがナンヨウハギのドリーと共に、息子ニモを人間の世界から救った冒険から1年。何でもすぐに忘れてしまうドリーは、グレートバリアリーフのサンゴ礁で親友のニモやマーリンらと平和に暮らしていた。だが、忘れんぼうの彼女の脳裏に、ただひとつ忘れなかった家族の思い出が浮かぶ。いてもたってもいられなくなったドリーは、ニモたちの協力を得て、家族を見つけ出すため、カリフォルニアへ向かう。なぜ家族のことだけは忘れなかったのか。そしてドリーの家族はどこにいるのか。だがドリーの秘密は、人間の世界に隠されていた…。

 

大ヒットを記録した秀作アニメーション「ファインディング・ニモ」の13年ぶりの新作「ファインディング・ドリー」は、何でもすぐに忘れてしまうが、いつも楽天的で明るい性格のナンヨウハギのドリーが主人公だ。物語は、ドリーの家族探しの大冒険を描く海洋アドベンチャーで、ファンタスティックな海の世界は、その色彩、水の輝き、魚たちの表情や動きなど、現在のCGの最高レベルのクオリティで描かれ、何度も見惚れてしまう。今回は、美しいサンゴやカラフルな魚たちだけでなく、ちょっとダークな海藻の群れの暗い色彩や奥行も見事である。

物語は、人間たちがいる水族館が重要な舞台となるので、ハプニングやピンチも数多く、ハラハラ、ドキドキもレベルアップだ。ドリーの秘密や家族の行方は、映画を見て確かめてもらうとして、魚たちの冒険の中に込められた重要なメッセージにぜひ注目してほしい。忘れんぼうのドリーの“忘れること”を、映画は決して欠点ととらえず、ドリーの個性だというスタンスで描いている。ドリーの仲間であるジンベエザメのデスティニーは泳ぎが苦手だし、シロイルカのベイリーは、遠く離れた場所にいる仲間やモノを見つける能力(エコロケーション)に自信がない。誰もが不完全で悩みを抱えているのに、それを決して責めたりはしない。

そういえば、ニモだって片方のヒレは小さいが、あんなに元気で魅力的だ!本作のアドベンチャーは、ドリーが家族を探すことも重要だが、同時に、ドリーが自分自身を発見する旅でもある。誰もが同じである必要などない。一人ひとりの個性を尊重し、違いを喜び合える。それは、現実社会でも理想の世界だと誰もが気付くはずだ。何より自分の可能性を信じることの大切さを教えてくれている。いつの時代もディズニーアニメは、時代を照射しながら、前向きで力強いメッセージを発信しているのだ。この作品には勇気づけられる。

【80点】
(原題「FINDING DORY」)
(アメリカ/アンドリュー・スタントン監督/(声)イドリス・エルバ、マイケル・シーン、エレン・デジェネレス、他)
(ポジティブ度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年7月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。