日本の輸入車市場のトップは、実は昨年からメルセデス・ベンツです。排ガス規制のデータ改ざん問題があったフォルクス・ワーゲンが2位に沈み、1位に躍り出ています。
しかし自動車業界全体を見ると、若者の車離れだけではなく、カーシェアの普及もあって、販売は苦戦しています。以前は高級車の代名詞であった「ベンツ」も今や、300万円以下で買えるモデルも出し、すそ野を広げようとしています。そんな中で、ベンツが進める販売政策の1つが、カフェや試乗スペースを拡大することによる、「車のエンターテイメント化」です。
以前は車というと、メカ好きな男性がスペックを競うイメージが強かったのですが、むしろ毎日のライフスタイルの中に車をどのような形で取り入れるかというソフト面が大切なのです。
六本木にあるショールームの横に出来たレストランと試乗スペース(写真)は、その典型的な試みです。
試乗と言っても単に一般道を運転するのではなく、敷地内に設置された金属製の急坂の特製レーンをSUVがアクロバティックに上っていくのを体験できるという特別なものです。横で見ていても怖くなるような急こう配の坂を専門のドライバーがゆっくりと上っていき、頂上でしばらく止めてから、バックで降りてくるというスリリングな内容です。
アミューズメントパークのようなドキドキする体験を無料でしているうちに、車が欲しくなることを狙ったマーケティング手法です。
その隣に併設されているレストランは、リゾート地に作られたような解放感が特徴です。プールが真ん中にあって(泳げません)、その周りをデッキチェアやウッディなシートが囲むリラックスできる空間です。
この手の施設のお料理やドリンクは得てしてクオリティに問題があったり、割高だったりするものですが、そこはベンツが経営しているだけあって手抜きはありません。
ビールはエビスとコラボレーションしていて最高品質。お料理も恐らく外部の専門会社に委託しているようで、リーズナブルな価格なのに味は本格派。ベンツだから高いと思い込んでいる人が多いせいか、3連休の中日なのにガラガラでした。
車を売るのに、お酒を売るというのは何だか矛盾しているのですが、高額商品の販売には、顧客との接触時間を長くすることが大切です。単に車のセールスを続けるよりも、ショールームに遊びに来てもらって、車に触れる時間を長くして、気になる商品を見つけてもらい、ファンになってもらう。
営業マンが性能や乗り心地を一生懸命説明するよりも、商品に長く触れる時間を演出することで、気持ち良く購入してもらうことができる、新しいセールス手法なのだと思います。
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編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2016年7月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。