弊著『原油暴落の謎を解く』(文春新書)で紹介したBPスペンサー・デールの「石油の新経済学」では、「石油・ガスは、これまで『東から西へ』流れているが、将来は『西から東へ』流れるようになる」と指摘している。
ガスに関しては、それがすでに現実化しているようだ。
今朝、流れているFTが掲題を報じている。原文は “US exports gas to the Middle East” (July 18, 2016 11:03am) というものだ。
この早い展開を支えているのは、洋上で使用可能な「浮体式再ガス化装置(Floating Storage and Regasification Unit=FSRU)」の普及だ。
まずFT記事の要点を紹介しよう。
米国最初のLNG生産装置、シェニエール・エナジーが持つルイジアナ州のサビナ・パスからのLNGは、今年2月に出荷が始まったが、その内の2隻がクエートとドバイ(UAE)に荷渡しされた。
データ会社GenscapeのTed Michaelは「LNG輸送ルートの大変換が起こっている。古い秩序はひっくり返っており、この動きが収まる気配は見えない」という。
シェニエールのLNGは、これまで7カ国(上記2カ国に加え、アルゼンチン、チリ、ブラジル、インド、ポルトガル)に輸出されている。
中東は豊富なガス資源を持っているが、LNGへの投資が行われていない国々があり、急増する発電・産業用需要を満たすために輸入が必要となっている。
豪州および米国で立て続けに新規LNGプロジェクトが立ち上がり、これがLNG価格を下落させており、魅力的な燃料としている。さらに低コストのFSRUがLNG輸入を容易にしている。
クエートは、2012年に100万トンの輸入量だったが2015年には約3倍の304万トンに増加している。またエジプト、ヨルダンも2015年からLNGを輸入するようになった。
これまでカタールが最大のLNG輸出国だったが、2~3年のうちには豪州、米国に抜かれるだろう。
IEAは、中東のガス需要は2040年までに倍増し、米国LNGの重要な市場になるだろうと予測している。
米国は、湾岸諸国へガスを輸出開始したが、一方、石油を160万B/D(2016年平均)輸入している。2003/4年には240万B/Dだった。
1890年代には盛んであった米国から中東へのエネルギー供給ルートをLNG輸出が再開しているのだ。
エネルギー歴史家であるダニエル・ヤーギンは次のように語っている。
「19世紀末にロシアの輸出が急増するまで、米国は中東への支配的な供給国だった。20世紀には中東自らの生産がこれらを代替した」
そうか。歴史的にみると、「西から東へ」は初めてではないのか。
FSRU(浮体式再ガス化装置)については、2015年4月29日に米EIAが発表している “Floating LNG regasification is used to meet rising gas demand in smaller market” が参考になる。
これによると、LNG船を改造して建造することもできるFSRUは2005年に米国メキシコ湾で最初に使われ、2015年には世界全体のLNG受け入れ装置の8.8%、約92億立方フィート/日(約7000万トンLNG/年)にまで普及しているそうだ。
日本企業が参加している米国LNGプロジェクトからの出荷は2017年には始まる予定で、現在の市場状況では中東などからの原油価格連動のLNGより「割高」になる見通しであることは、昨18日の日経・松尾編集委員の記事「誤算のシェールガス、米国からの輸入秒読み」のとおりだ。
世の中、将来を見通すことは難しいなぁ。
編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年7月18日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。