石油は30年で枯渇する説に根拠はなかった?

1973年.アラブのイスラエル攻略戦略として、石油禁輸が発動された。「石油危機(オイルショック)」である。とりわけ日本にとってはそのエネルギー源が断たれることになるため、市民生活に混乱をきたす結果となった。

日本は経済・生活を支えるエネルギーのほぼ全量を、海外からの輸入資源に依存している。当時、エネルギーの根幹はアラブ産油国からの石油であった。そこで日本は省エネにまい進し原子力発電に舵を切り原子力発電を基盤とした経済運営に移行する。しかし、東日本大震災による福島原子力発電所の崩壊と放射能の拡散によってエネルギー確保の基盤を基本から考え直すようになる。

絵で見る日本のエネルギー・エネペディア』(みらいパブリッシング)の著者、箭内克寿(以下、箭内)は日本輸出入銀行(現:国際協力銀行)入行を経て、日本石油開発株式会社にて海外の石油開発に従事。ジェトロなど政府機関において経済翻訳などもおこない、エネルギー・エコノミストとして活動をしている。本書は、「エネルギーバランス・フロー」について地政学的視点を踏まえて分かりやすくまとめられたものである。

●石油は30年で枯渇するのか

石油は30年で枯渇するといわれている。しかし、この30年にはなんら根拠があるものではないそうだ。箭内によれば、石油の開発・経営が30年を照準としているのでこのような表現が使用されているとのことである。さらに、石油の供給は超長期的な議論が望ましいと、箭内は次のように述べている。

「実際には、石油の需要は世界の経済成長の鈍化によってその伸びが止まっている面があります。また、化石エネルギーから再生可能エネルギーへの転換も強く進められています。そのようななか、まず消費を抑えようとしているのが石油です。」(箭内)

しかし、石油には他のエネルギーに代替できない物性がある。石油の代替できない特性をどのように理解すべきなのだろうか。

「代替可能なものはそれとして、いずれ棲み分けのなかで石油の技術革新もあるでしょう。石油が大切な資源であることは間違いないので、特性を活かしながら残り続けていくことでしょう。30年に留まるのではなく100年の事業に目を据えて、謙虚に共栄していかなければいけません。」(箭内)

さらに、いまのエネルギー問題に関しても、箭内は次のように述べている。

「水力、太陽光、風力、地熱と日本に存在しない再生可能エネルギーはありません。日本の安全保障の観点から、太陽光発電の技術力・生産力の優位性が揺らいでいます。他国依存となる懸念も、また国際収支の財布の揺らぎなどの心配も一部にはあります。電力設備を含むインフラ整備は超長期的展望の上に築かれるものです。夢をもってこれからの世を照らすことにまい進することが肝要です。」(箭内)

それでは、日本はなぜ電子力発電に舵を切ったのだろうか。日本のエネルギー、とりわけ電力の安全で安定した供給には、それまでの主に石油を燃料とする火力発電では対応できないと判断されたことによると箭内は述べている。

「日本において石油はそのほぼ全量を輸入しています。いまだに政治・経済が安定しているとはいえない国々に多くを依存しており、必要量を確保できるか不安があります。その価格も、見通しの立たない複雑なファクターを含んでいます。」(箭内)

「原子力発電でも燃料のウランを全量購入していますが、政治・経済の安定した国々から輸入できます。価格もある程度は見通しが立てられます。さらに、原子力発電所の建設やオペレートでは、日本の技術力は高く評価されています。」(同)

●本日のまとめ

日本経済において、電力が止まることは死活問題である。そのコストが積算できないような事態は避けなければいけない。先進国の原子力発電はヨーロッパを中心に見直しが進められており、途上国での原子力発電への期待も強まっている。日本も原子力発電所の輸出でそれに応えようとしている。

最後に、本書の一部を引用し結びとしたい。「そもそもエネルギーとはいったい何でしょうか?エネルギーは色々な場面で様々な色合いで使われています。エネルギー問題の現状を理解し、またその年の推移を把握して、将来のエネルギーの姿を考える糸口となることでしょう。」

本書には、「電気とガスってどっちが得なのか」「日本に最も適した再生可能エネルギーはなにか」「日本ではじめて電力が使われたのはいつか」など、普段、エネルギーに馴染みがない人にとっても理解しやすい内容が数多くまとめられている。エネルギー問題全般を簡単に網羅したい人にとっては役立つのではないだろうか。

PS

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尾藤克之
コラムニスト