独銃乱射事件の犯人と「ブレイビク」

ドイツ南部バイエルン州の州都ミュンヘンで22日午後5時50分ごろ、135店舗が入ったミュンヘン最大のオリンピア・ショッピングセンター (Olympia-Einkaufszentrum)周辺で、9人が射殺され、27人が負傷するという銃乱射事件が発生した。


▲ ミュンヘンのアンドレ警察長官の記者会見(23日、ドイツ民間放送から撮影)ウィーン小川敏、2016年7月23日

ミュンヘンのフベルトス・アンドレ(Hubertus Andra) 警察長官が23日午前、記者会見で明らかにしたところによると、①犯人はミュンヘンに住む18歳のイラン系のドイツ人、②犯人は犯行現場から少し離れた場所で自殺していた、③犯人は拳銃(グロック17)を所持、④犯行動機は明らかではないが、イスラム過激派テロ組織「イスラム国」(IS)との繋がりは見つかっていないという。

ミュンヘン警察当局は現在、「犯人とISとの関係はなく、精神的に鬱状況下で大量殺人という蛮行に走った可能性が高い、という方向で捜査を進めている」という。

警察当局は犯行直後、約2300人の警察官を動員する一方、イスラム過激派テロリストの襲撃事件を想定、対テロ特殊部隊(GSG9)にも動員を要請。ショッピングセンター上空にはヘリコプターが旋回し、空から犯行現場を監視するなど厳重警戒態勢を敷いた。市民にはスマートフォンの警報システム(Smartphone-Warnsystem Katwarn) を通じて、自宅から出ないように呼びかけた。同時に、ミュンヘン市中心街につながる地下鉄の運行を停止させる一方、タクシー業者に対しては警戒解除されるまで客をとらないように要請するなど、大規模な警戒態勢を敷いた。事件発生当初、犯人は3人という複数説が流れていた。

ドイツのメディアは事件発生直後からブレーキング・ニューを流し、事件の進展を報道。市民が撮影した犯行現場のビデオによると、犯人はシッピングセンター前にあるマクドナルドから出てくると、路上の市民に向かって発砲を繰り返し、市民が慌てて逃げる姿が映っていた。

興味深い点は、18歳の犯人は、ノルウェーのアンネシュ・ブレイビク容疑者(37)がオスロの政府庁舎前の爆弾テロと郊外のウトヤ島の銃乱射事件で計77人を殺害した事件に強い関心を寄せていたことだ。犯人が犯行した22日はブレイビクの大量殺人事件5年目(2011年7月22日)に当たる。犯人は意図的に22日に犯行を実行したのではないか、という推測が浮かび上がってくる。

ミュンヘン警察関係者が明らかにしたところによると、ミュンヘンの犯人は他人のフェイスブックを利用し、マクドナルドに招待するという趣旨のメールを送信し、若者たちを呼び集めていたという。ブレイビクがウトヤ島で開催されたノルウェ―労働党青年部の集会に参加した若者たちを次々と射殺していったように、ミュンヘンの犯人はマクドナルドに来た若者たちを射殺する計画だったのではないか。実際、犯人のリュックサックには300個以上の弾薬があったという。

なお、バイエルン州では18日午後9時頃、ビュルツブルクでアフガニスタン出身の17歳の難民申請者の少年が乗っていた電車の中で香港からきた旅客に斧とナイフで襲い掛かり、5人に重軽傷を負わせるという事件が起きたばかりだ。少年は犯行後、電車から降りて逃げるところを駆け付けた特殊部隊員に射殺された。少年の部屋から手書きのイスラム過激派組織「イスラム国」(IS)の旗が見つかっている。

ミュンヘンの銃乱射事件は当初、ビュルツブルクのテロ事件と同様、ISと関連したテロ事件と受け取られていた。犯人の自宅から押収されたPCの分析が終了していない段階ではテロ説を完全には排除できないが、ミュンヘンの銃乱射事件は精神病下にあった青年がブレイビクのような蛮行に走った可能性が目下、現実的だ。

なお、バイエルン州のゼ―ホーファー州知事は23日、「安全なくして、真の自由はない」と強調し、治安の改善のため努力していくと述べる一方、23日に予定されていた全イベントの開催中止を明らかにした。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年7月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。