社交辞令をまともに受けると大変なことになるケース

上司の大好きな言葉に「無礼講」というものがあります。月末の〆、半期の〆、決算の〆など、名称は会社によって異なりますが、社員の活動を労う(実際は違うかも知れませんが)ための慰労会が開催されます。

サーブコープジャパンが、40代、50代の管理職400人に実施した、「日本のビジネスマナー、ホントに押さえておくべき常識って?」によれば、「無礼講を本気にする社員」「部下のためぐち」「断りもなく、たばこを吸った」「ずっとスマホを見ている」などが非常識として挙げられています。

無礼講であっても常識の範囲で気遣いをしたいものです。皆さまが、無礼講の本当の意味を知らなければ、それは大きなリスクになることを申し上げておかなければいけません。

まず、慰労会とは社員を慰労する場ではありません。上司が自らの存在を誇示し再確認する場です。上司は考えているはずです。慰労会を進めながら、「こいつは異動かな」「コイツは頑張っているから満額のボーナスをやろう」など、思惑がうごめいているはずです。

●「北の旅人」事件とは

A社は飲料メーカーの販促をおこなう広告代理店です。この度、地方のある酒造メーカーが社内見学の招待をしてくれました。酒造メーカーの担当は部門統括の城田役員(仮名)です。酒造メーカーは少々、最寄の駅から離れていることもあり、自家用車を所有している社員は、他の社員を乗せて現地集合となりました。

城田役員はトヨタのクラウンに乗っていました。他の社員の車は全て国産車で、グロリア、スカイライン、カローラなど。クラウンのグレードを上回る車はありませんでした。

待ち合わせの場所に最後に登場したのが、田中マネジャー(仮名)でした。田中マネジャーは今期、高い成果を収めており、社内でも次期部長を嘱望される人物でした。しかし、田中マネジャーの登場を境に、城田役員の表情が険しくなりました。

城田「いま何時だと思っているんだ!君は既に部長にでもなったつもりなのかね?ん」
田中「申し訳ございません。10時集合に間に合っていますが何かご不満でしょうか」
城田「当たり前だ!君には管理職としての意識が欠落している。もっと自覚を持ちたまえ。いい気になるんじゃない!」

田中マネジャーは何故、城田役員が怒っているのかわかりません。実は城田役員のクラウンは廉価モデルですが、田中マネジャーのクラウンはスーパーセレクトという上級モデルでした。価格も○百万円は違うはずです。部下のほうがグレードの高い車を乗っていたので面白くなかったのです。

その場は上手く収まりましたが、宴会で修羅場が待っていました。宴会は無礼講ではじまり、既に「宴もたけなわ」でカラオケ大会も終盤に差し掛かっています。

城田役員の十八番は石原裕次郎の「北の旅人」です。田中マネジャーは城田役員に気をつかい「城田役員、最後にビシッと決めてください」と一言。城田役員は「今日は飲みすぎて声が出ない。君が歌ったらどうかね。今日は無礼講だ!」と返します。

それではと田中マネジャー、おもむろにマイクをつかみ「北の旅人」を歌いはじめます。石原裕次郎ばりに低音ボイスでビブラートを聞かせてまさに熱唱でした。

翌月、田中マネジャーは地方のデータセンターに飛ばされました。データセンターは過去の資料や出版物を扱う資料室のようなもので花形とはいえません。その後、社内では「北の旅人事件」として語り継がれることになります。

●読者への示唆

上下関係は堅苦しいものですが、優秀な社員は型を崩さないものです。つまり部下としての一線を越えてはいけないということです。「今日は無礼講だ!」と言われても部下は「有難うございます。それでは~」と型を崩してはいけないのです。

上司は、決して慰労しようなどとは思っていません。上司が自らの存在を誇示し再確認する場であることを忘れてはいけません。無礼講と言われたらいつもより慎重な対応が求められるのです。社交辞令はまともに受けると大変なことになります。

(文/コラムニスト・尾藤克之)

PS

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