家入さんがネットに「さよなら」って一体?

家入 一真
中央公論新社
2016-08-08

 

どうも新田です。参院選、都知事選と怒涛の日々が終わり、ようやく本を読む時間ができたと思った数日前、偶然か必然か前回、都知事選で私が担ぎだした家入一真という人から、「どうしても読んでほしい」とメッセンジャーで校了ゲラをPDFでそのまま“献本”してきたので、「読みにくいなぁ」と苦笑しつつ、せっかくなので開いてみたら、これが近年の自分の実感とシンクロして面白かったです。

彼は、いくつもの顔を持っております。私が現認した政治活動家としての側面以外にも、IT起業家であったり、シェアハウスの主宰者であったり、炎上イストであったり(笑)、つかみどころがないのが彼の持ち味。ただ、一見、不思議ちゃんかと思いきや、アゴラでも、いろいろとポエムを披露するように、時折「思想家」的な一面も時折のぞかせているわけですが、今年初めのエントリーで「インターネットは広くなりすぎて輪郭を失ってきている」という、彼独特の表現があって、これは一体なんなのか、ずっと気になってたんですよ。

で、本書のキーワードが、まさに「失われるネットの輪郭」。90年代前半、ひきこもり少年だった著者がパソコン通信で外部とやりとりした頃のネットの世界は“やさしく”見えたよう。やがてプログラミングに熱中し、IT起業家への足場を固めていく中で「居場所」を見出したネットの世界は「現実世界以上の朗らかさや温かさ、 そして信じるに値する可能性を含有した、豊かな世界が広がっていた」と振り返ります。しかし牧歌的な様相は2000年代に入って一変。SNSやスマホの普及でネットを使うことが呼吸をするのと変わらなくなり、リアルとネット、あるいはSNSで常時接続する人と人など、さまざまなところで「輪郭」や「境界」が消失していくことに、著者が困惑し、抗い、どう向き合っていくか試行錯誤してきた回顧録になっております。

印象的だったのは「孤独」の価値を強調していたところ。決して過去のひきこもり経験者だからというのではなくて、SNSを介して、人と人が繋がりすぎる時代だからこそ、思考や読書に時間を使うことの意義を改めて見出していたポジティブな提唱です。まあ、どんな天才でもアウトプットばかりでは枯渇しますしね。選挙時に家入さんの投宿先を訪ねた際、政治から哲学系の書籍までベッドの周りが山積みになっていて、彼のことを「ネットでチャラチャラしている」と批判する人にはきっと意外であろう光景だったのを思い出します。

そんな家入さんが考える「インターネットの未来」については、本書をお読みください。

さて、「輪郭」の話に戻すと、家入さんが今回示した視点は、社会学者やジャーナリストが理論的にすでに指摘しているものと共通していて、際立って斬新というわけではありません。

しかし、その代わりにこのテーマの面白みをしっかりと下支えしているのが、ひきこもり時代に始まる彼のユニークな生い立ち。ネット起業→上場→財産消失→シェアハウス等の社会事業→都知事選出馬→再び起業(←イマココ)という、彼の事業の変遷に重ね合わせてみることで、わかりやすく立体化されております。IT起業家がなぜ飲食事業というバリバリのリアルビジネスを手を出したくなるのか、というくだりは、まさに実務家視点で興味深いところ。なるほど、今回これを読んで初めて、散財してまでカフェ事業やらかした理由がちょっとわかりました。

これまでの彼の著作はどちらかといえば、叩き上げ系の起業家が武勇伝を語る系のビジネス書を出す中堅出版社との付き合いが多かったせいか、思想家としての部分を引き出しきれていない印象を持っていたのですが、このあたりは本格派の中央公論新社らしく、「思想家×実務家」としての家入一真らしさのまとめ方が、こなれている印象。編集者とライターの力量を感じます。いやはや、寝坊とか当たり前の著者とのお付き合いは大変だったでしょう(笑)

ちなみに本日発売のようです。私も今回の都知事選でネットとリアルの“輪郭の消失”を目の当たりにしたこともあり、引き続き家入さんの発信内容には注目しております。ではでは。

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・ぶっちゃけ、ネットで政治は変わるのか?(東洋経済オンライン)
http://toyokeizai.net/articles/-/32268
・現代ビジネス連載「選挙イノベーションへの道」(14年都知事選当時の同時進行レポ)
第1回   http://gendai.ismedia.jp/articles/-/38234
第2回   http://gendai.ismedia.jp/articles/-/38268
最終回 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/38380