リオ五輪開催中にも関わらず、米大統領選の話題は尽きません。
共和党のトランプ米大統領候補、五輪に注目をさらわれまいとしているわけではないでしょうが経済政策を発表しました。柱は以下の通り。
▽所得税
・所得税の税率区分を現行の7段階(10%、15%、25%、28%、33%、35%、39.6%)から3段階(12%、25%、33%※以前の主張である最高税率25%から修正)に縮小
▽法人税
・現行の35%から15%へ引き下げ
▽相続税の廃止
・現行は545万ドル以上を対象に40%を設定するも、廃止を目指す
▽養育費への税控除
・詳細に言及せず
その他、引き続き環太平洋パートナーシップ(TPP)の離脱、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉、メキシコや中国などの製品への関税引き上げを主張しました。
民主党のクリントン候補が掲げる税制に関わる主な公約は、以下の通り。
▽キャピタルゲイン税
・保有期間1~2年と短期の場合は39.6%(※高額所得者の投資収益に課すメディケア税3.8%を含め43.4%)、現行20%から引き上げ
▽富裕層への増税
・「公正なる上乗せ税(Fair Share Surcharge)」として、年収500万ドルの富裕層に4%の所得税を上乗せ
▽相続税対象資産額の引き下げ
・現行の545万ドルから350万ドルへ引き下げ、税率も現行の40%から45%へ引き下げ
その他では租税回避の抜け穴を防ぎ、高所得層への税控除割合を28%に設定するといいます。企業には新規採用者あるいは研修者1人当たりにつき1500ドル相当の税控除を、利益を従業員と分配した企業にはさらに15%の税控除を付与する方針です。
両者の政策をみると、民主党の候補らしくクリントン氏の政策がより富裕層に厳しい内容となっています。どちらの候補の政策が支持されるのでしょうか。アメリカ人の現状をひも解いて考えてみましょう。
現状で無党派層が全米の42.8%、過去最高。
(出所:Gallup)
中間所得者層は50%と、1970年以降で最低。
(作成:My Big Apple NY)
こうしてみると、米大統領選での勝利のカギこそ無党派層であることが分かります。さらに、中間所得者層の減少を受けていかに格差問題を解消する提案を示すことができるかが運命の分かれ道といった状況も浮かび上がります。
報道では、トランプ候補に分が悪い話が再び飛び出しています。経済政策発表早々に、財政保守派寄りの団体であるタックス・ファンデーションが「トランプ案で向こう10年間で11.98兆ドルの財政赤字を生む」との分析を弾き出しました。
追い討ちをかけるようにゼーリック元世銀総裁や米国家安全保障会議の上級アジア部長や東アジア担当大統領特別補佐官を務めたマイケル・グリーン氏、元通商代表部(USTR)の代表だったロバート・ゼーリック並びにカーラ・ヒルズ氏、マイケル・ヘイデン米中央情報局(CIA)元長官などの50名が「トランプ候補に投票しない」との声明を発表していましたね。
挙げ句の果てには、元CIA職員で下院議員団の政策担当部長を務め、ゴールドマン・サックスに勤務した経歴を持つエバン・マクマリン氏(40歳)が無党派として立候補を表明しました。反トランプの拳を掲げ、「権威主義者」と批判します。こちらでご案内の通り、多くの州で立候補締め切り期限を過ぎてしまっており、当選の確率はゼロに等しい。ただし、リバタリアン党のゲイリー・ジョンソン候補とともに票を分散させるという意味では役に立つ存在と言えそうです。共和党層の間で票が割れてくれるのは、クリントン候補にとっては願ったり叶ったりでしょう。トランプ候補のおかげで自身のメール問題をはじめ数々の疑惑が蒸し返されず、TV広告で批判キャンペーンを展開する必要も低下していれば、尚更ですよね。
(カバー写真:Gage Skidmore/Flickr)
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年8月9日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。