日銀が本来すべき総活とは

9月20、21日の金融政策決定会合では議長(恒例により通常は日銀総裁)から指示のあった「総括的な検証」が発表される予定となっている。企画を中心とした執行部はその取りまとめを現在行っていると思われる。

フレームワークの調整としては外部要因による影響も考慮して、もう少し期間や量の幅などを柔軟にするといったことが予想される。マイナス金利政策については金融庁からも指摘があった以上、深掘りは選択肢に入れることはできないとみられる。むしろ1月に決めた多段階方式をさらに複雑化させて金融機関に配慮するようなことも予想される。日銀が現在の前向きの姿勢を維持している限り、このような予想にならざるを得ない。

しかし、いつまでもこのような異常ともいえる政策は続けるべきではない。短期決戦を狙ったものの、当初の勢いはなくなり戦線は拡大したが、いたずらに量を増やすだけとなり、金融市場を混乱させてしまっている。開戦を画策した当事者たちからは玉砕戦法とすらいえるヘリコプターマネーまで持ち出される始末である。

ここで日銀が本来すべき総活とは、これまでの政策の前提に間違いはなかったのかとの点に絞るべきであろう。単純にマネタリーベースといった量を増やし、長い期間の国債を含めて大量に購入した結果、引き返しが困難な状況に自らを追い込むことで何か変わったのか。これでレジームチェンジは起きたのかとの検証である。

アベノミクス開始後の一時的な円安株高はあくまでタイミングが良かっただけである(欧州リスクの後退によるリスク回避の巻き戻し)。目標とする物価はたしかに一時前年比プラス1.5%まで上昇した。この点についての検証もほしいところであるが、円安や消費増税前の駆け込み需要等てせの説明も可能であろう。その後再びマイナスに落ちている以上は、レジームチェンジが起きたことでの物価の前年比の上昇とは結論づけることも難しい。

雇用の回復が仮に異次元緩和などの効果だとするのであれば、物価の上昇を経由せずに可能になった理由の説明も必要になる。雇用の回復といっても失業率等だけでは判断できない面もあるのも事実。

これらから導き出される結論は、大胆で思い切った金融緩和により、物価を含めた経済の回復に直接影響を及ぼすことはできなかったという事実ではなかろうか。

金融緩和は本当の意味での治療薬ではなく、金融市場を沈静化させる麻酔薬に過ぎない。ただし、国債の利回り低下に働きかけたことは確かである。しかし、長期金利がマイナスに低下したからといってファンダメンタルズが劇的に改善するわけでないことも実証した格好となっている。

これらからみた結論は大胆な緩和策を見直すことにあるのではなかろうか。すでに量と金利の面からは限界も見えている。質かどうかはわからないがETFの買入増額はむしろ市場の秩序を乱すとの指摘も出てきている。国債の買い入れに額については早期にテーパリングを進めるべきであり、マイナス金利政策も止めるべきものと言えよう。

ここまで膨らんでしまった日銀のバランスシートはついては、この水準を当面維持させることで緩和効果は継続するとの主張をすることで、緩和政策からの後退ではなく、この緩和状態を維持させて効果を見守るといった姿勢に変更できないだろうか。これは正常化を進めているFRBに近い策となる。

そうはいっても為替市場や株式市場の反応が恐い面もみあろうし、ここまで金利が下がっている長期金利の反発も市場を混乱させる懸念がある。しかし、どこかで決断しないことには、むしろ市場によっていずれ出口政策追い込まれてしまうというリスクも存在しよう。


編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年8月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。