上司は期待感でお腹一杯にさせておけ

これは某営業会社の話です。この会社では、売上の小さい案件が評価の対象になりません。期初のキックオフにおいて上層部から大型の受注が見込める案件を優先する方針が示されます(例えばコア顧客主義など)。

小口案件はサポートの派遣社員に対応させます。各営業マンの営業目標が年間1億円とします。100万円の案件を100社獲得しても売上1億円に達しますがまったく評価されません。考課者がこのような意識になると様々な弊害が生じます。

まず各営業マンが、数字が見込める大型顧客を手放さなくなるのです。「あの客は私でなければ対応できません」「信頼関係が構築できているのは私です」とお決まりのセリフが返ってきます。

営業会社は慢性的に営業マンが不足するので、定期的に中途採用をおこなう傾向があります。ところが、転職者に振り分けられるのは、実績のない新規開拓顧客リストのみです。6ヶ月程度経っても成果が上がらなければ居づらくなるので自然に退職していきます。

そしてまた採用を繰り返す悪循環の繰り返しです。稀に成果をあげたとしても、小口案件はクズ案件ですから評価対象外です。査定は悲惨なものとなり、既存社員との給与格差は開く一方です。

営業に厳しい会社は、このような風潮が残っているものです。まず、上司を納得させるには、決まる決まらないはともかく、大手有名企業の案件を獲得することが大切です。大手有名企業というだけで上司は色めきだちます。大手有名企業にはコンペチターも多いわけですがお構いなし。訪問機会を獲得したことが評価の対象になります。

そして、上司はすぐに担当を決定するはずです。「この案件はオレが担当しよう」「提案はフルスペックのトータル提案でいこう」「この会社からは○億円の受注だ」。提案自体が身の丈にあわないトータル提案ですから決まるはずもありません。

ところが、大手有名企業の提案には数名の担当がアサインされますから、受注できなくても責任が分散されます。さらに、会社の上層部を巻き込んだプロジェクトですから、稀に提案が決まってしまう場合もあります。それはそのまま実績となり評価につながります。

このような会社では、上司の好みに合わせて期待感を与えておくことが必須です。営業という場面に上司を引きずり出して「期待感でお腹一杯」にさせておけば良いのです。

PS

「次代の論客は貴方!『アゴラ出版道場』今秋開講」です。出版機会とアゴラ執筆人に加わるチャンスがあります。初回は、10月1日です。

尾藤克之
コラムニスト