1.G20開催地 杭州と習近平
中国浙江省・杭州で9月4日~5日にG20(Group of Twenty)20か国・地域首脳会合(G20首脳会合)および20か国・地域財務大臣・中央銀行総裁会議(G20財務相・中央銀行総裁会議)が開催される。中国はこの議長国となっている。
杭州といえば、隋唐の次にやってくる五大十国の時代、呉越国の都となった地域だ。その後、北宋が「金」と「南宋」の2つの国に分裂するが、この南宋の首都といわれているのが杭州である。日本では平安後期から鎌倉時代初期の頃となる。
杭州市内の中心部には2011年6月、世界文化遺産として登録された西湖がある。私は2010年、13年と杭州を訪ねているが、当時の西湖は水質が悪く生臭さが漂い、夕方になると大量の蚊が発生していたと記憶する。
今年6月にも杭州を訪ねた。西湖水面にはアメンボが泳ぎ、悪臭を感じなかった。水質は徐々に改善されてきているようだ。市内の幹線道路から見える建物のほとんどが、明るい色のペンキで塗られ、遠くから街並みが綺麗に見えるようになっている。
むろん路地裏に足を踏み入れれば、ありのままの姿を見ることになる。食堂街に近いゴミ捨て場や下水口のつまりなど、人々の意識が変わるまでにはまだ多くの時間が必要なようである。ただ、中国内では極少数ではあるが、杭州は早くから「車ではなく、人が優先される街」に変貌し、以前より安心感が増した。
今ではケンタッキーやマクドナルド、スターバックス・コーヒーが街道を賑わせているが、誇張やでっちあげを厭わないお国柄である。G20が成功に終われば、「G20は中国5000年の歴史的由緒のある街で開催され、中国共産党が主導し、その絶大なる成果を得た」などと総括されることだろう。
日本の外務省HPを見ると、習近平氏は2002年10月に浙江省党委員会副書記、2002年11月に浙江省党委員会書記、2003年1月は浙江省党委書記を務めたとある。そんな立場であれば、北京からあらゆる面において相当な発破をかけてきたに違いない。今回のG20は「成功」あるのみ。中国共産党の威信と習近平の面子をかけた「国際会議」なのであり、その成否は今後の勢力を占う試金石ともなろう。
2.朝令暮改の議長国
そうしたなか、中国側はことあるごとに「テーマを経済問題に絞り、南シナ海など安全保障に論議を波及させないよう関係国に求めている」という。中国側は、①構造改革、②貿易と投資の推進、③世界経済の成長維持、④国際金融の枠組み強化という4つのテーマをあげ、「G20で経済以外の議題は討議すべきではない」と、参加国側に事前の了解を求めていた。
しかし、これは不思議な話である。
なぜなら、チャイナ・ネット(中国網日本語版、2016年8月10日)では、「G20:グローバル・ガバナンス、中国の知恵」と題する記事で、こう述べている。
「G20は多国間の協調・意見交換システムとして、取り上げるテーマが政治、軍事、貿易、安全、エネルギーなどに及ぶ。実質的な成果の取得を目指し、G7時代の薄っぺらな現実味のない話で議論しても決められない状態に陥ることを避けている。参加国の誠実な努力に加え、食い違いのコントロール、大同小異、大局観、現実を見つめて実務を行う知恵が必要だ。」
「あと3週間ほどでG20杭州サミットは正式に開催する。世界遺産の西湖が世界30カ国超の首脳を迎え、かねてより『人間天堂(この世の天国)』という美名ががある杭州市で、G20サミットの豊富な成果が世界に示されるだろう。我々も括目して待ちたいところだ。」
ご承知のとおり、中国はインターネットをはじめテレビや新聞、雑誌の記事、ありとあらゆる媒体への発信は「許可」が必要である。中国共産党の「検閲」なしに国内外への発信は許されない。
この「チャイナ・ネット」は、『中国国務院新聞弁公室が指導し、中国外文出版発行事業局が管理・運営するニュースサイトであり、創立は1997年。中国語(簡体字)、中国語(繁体字)、英語、フランス語、ドイツ語、日本語、スペイン語、アラビア語、ロシア語、韓国語など10カ国11種類の言語でニュースを配信』する、歴とした中国国務院の管理下にあるサイトなのだ。
昨日、『取り上げるテーマが政治、軍事、貿易、安全、エネルギーなど及ぶ』『G7時代の薄っぺらな現実味のない話で議論しても決められない状態に陥ることを避けている』と、これまでとは違う議長国の意気込みを述べたかと思えば、今日は、『G20で経済以外の議題は討議すべきではない』などと述べているのだ。
面子もへったくれもないではないか。すでに議長国・失格なのである。
半場 憲二(はんば けんじ)
中国武漢市 武昌理工学院 教師
※編集部より:アイキャッチ画像は公式サイト(英語版)から引用。