WSJのヒルゼンラス記者、9月利上げ観測台頭に「待った」

WSJ

上半期の成長が1%付近にとどまったとはいえ7~9月期の成長回復への自信が深まり、ダメ押しに米8月雇用統計が20万人に近い増加を遂げれば9月利上げが可能なムードが漂うこの頃。この男が9月利上げ観測に「待った」を掛けました。

ジャクソン・ホール会合での米連邦準備制度理事会(FRB)イエレン議長講演というより、その後のフィッシャー副議長のインタビューでにわかに台頭した9月利上げ観測。それから3日後の動揺冷めやらぬ29日に、ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙のFed番、ジョン・ヒルゼンラス記者が間髪入れず「年2回の利上げは可能だが、可能性は低い(Hilsenrath’s Take: Two Rate Hikes in 2016, Possible but Unlikely)」と題した記事を配信していたのです。

記事の中では、フィッシャーFRB副議長をして「他の参加者より利上げに同調的で、思い付きで話す」タイプであると指摘します。その副議長はCNBCのインタビューで、マーケットは年内2回の利上げに備えるべきかとの質問に「熱狂を求める腹積もり次第だ(depends on your stomach for excitement)」と切り返しました。しかし、ヒルゼンラス記者はこのコメントが即興であって原稿に明記された内容ではなく、額面通り受け取るべきではないと伝えたのです。フィッシャ―副議長が上記の言葉を発した後、すかさず「経済指標次第を確認するまで分からない」と付け加えたとも強調しています。

イスラエル中銀総裁時代、機動的な政策対応で名を馳せました。

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(出所:Federalreserve/Flickr)

また、クリントン政権誕生の暁に米財務長官の椅子に座ると目されるブレイナードFRB理事のほか、タルーロFRB理事と議長・副議長を含めたFRBからの参加者のうち2人が引き続き利上げに慎重と伝えています。両者は、インフレが2%に到達した段階で利上げすべきとの考えを表明済みですよね。7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げ票を投じたカンザスシティ連銀のジョージ総裁のほか、クリーブランド連銀のメスター総裁など少なくとも投票メンバーのうち2名は利上げに前向きながら、地区連銀総裁の立場とFRB理事では重みが違うということでしょうか。

中立派で米連邦公開市場委員会(FOMC)内のコンセンサスを反映した考えを持つとされるアトランタ連銀のロックハート総裁が、27日付けのWSJ紙とのインタビューで年内利上げについて「カレンダー上では可能」と発言した点にも注目。否定も肯定もしないながら、「少なくとも1回の利上げを行うには満足な環境だろう」と述べています。

一連の事情を踏まえ、ヒルゼンラス記者は9月利上げには「恐ろしいほど力強い経済指標が必要(need to be awfully strong)」と指摘していました。

ちなみに26日のイエレンFRB議長の講演直後、ヒルゼンラス記者は「イエレン議長、利上げの論拠の強まりに言及(Fed Chairwoman Janet Yellen Sees Stronger Case for Interest-Rate Increase)」と題し、9月利上げの扉を開けたと報じると同時に経済指標次第とのヘッジを掛けていました。そこから。9月利上げの可能性を後退させた背景には、何らかの意図を感じてしまいます。

(カバー写真:Mark Danielson/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年8月30日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。