イギリスにおける「人種差別」 --- 神谷 匠蔵

※「ポーランドのクズ野郎はいらない」という張り紙(写真はBBCツイッターより)


先日あるポーランド人男性が英国の少年6名(逮捕されたのは5名)に殺害されたという事件が日本でも報道されている。これを理由に日本国内では「英国社会は進んでいる」などというのは幻想だといった声も聞かれるようだ。

もちろん、もしこの「少年」6名全員が見事に「白人のイギリス人」なのだとしたら正に英国社会の内部的矛盾を曝け出す事件だと言えるだろう。

だが、犯人が「少年」である「少年法」の保護を受けるのは英国でも日本と同じであり、従って少年である犯人達の素性は決して明らかにならない以上、これが本当に白人の英国人による犯罪だとは断定できない。

この事件の主な報道元がThe Guardianである点も、世論をanti-Brexitへ誘導したい意図が透けて見えるようだし、そもそもガーディアン紙には普段からどんな犯罪であろうとなるべく素性を明かさず報道する傾向があるのはよく知られていることだ。

実際、今年7月にはあるポーランド人の妊婦がドイツで「少年」にずたずたに切り裂かれて殺害されるという凄惨な事件があった。だがこの「少年」は21歳であった為その素性が明かされ、結局「シリア系難民/Syrian Refugee」だったとわかったのである。もちろんこのような事件は日本で大きく報道されることはない。

英国では昨年度よりおよそ1600人の難民をシリアから受け入れたが、このうち900人が既に、つまり英国に入国してから1年以内に強姦や幼児虐待などの重犯罪で逮捕されているという報告もある。

逆に過去には英国内で酒に酔ったポーランド人の女性がヒジャーブを着たイスラム系の女性に対して「自分の国に帰れ」と罵ったという事件もあり、英国内における「人種差別」は「白人の英国人」が「ポーランド人」や「イスラム教徒」などの非英国系白人を差別しているという単純な構図では決してない。

英国にいる他のヨーロッパ系移民は英国で教育を受けたわけでは必ずしもなく、特に東欧では国内に非白人が少ないことから「人種差別」に関して比較的に鈍感な場合もあり得るため、本人に悪意はなくても英国内の「少数派」に「差別的」と受け取られる発言をしてしまうヨーロッパ人も少なくない。

また、そういう人種差別に鈍感な東欧系の白人に対してより「進んだ」英国人やドイツ人が「白人の恥さらし」という眼で一段下に見て、「お前達と一緒にされて人種差別主義者扱いされる俺たちの身にもなれ」という説教じみた感情を持つこともあるだろう。

確かに生粋の英国系の白人の中にも人種差別的発言をする人や中にはHate Crimeに手を染める人たちもいるのかもしれないが、そういう英国人が他の西洋諸国の白人と比べても多いのかどうかという点こそが問題だ。ひとつの事件だけから「英国人は差別的だ」などと決めつけるのは早計である。

尤も、たった一度の事件がもたらす影響は大きい。だがそれは逆説的に英国におけるこの手の事件の少なさを物語っているだろう。今やイスラム系移民によるテロになど誰も驚かない。だが白人が移民を殺害した可能性が少しでもあるとなれば誰もがその事件に注目するのだ。

念のために付言しておくが、私は英国や米国の反人種差別政策には否定的である。「black」という言葉を使うだけで「racist」扱いされる現状には何か病的なものを感じる。

だが、これほどまでに徹底した言葉狩りをしてまで「racism」を無くそうと涙ぐましい努力をしている英国人がたった一度の事件で(しかも犯人自身が移民である可能性もあるのに)「やはり英国人はracistじゃないか」などと批判される現実があるのなら、彼らの偽善を私は責めることができない。偽善は偽善であるが、その偽善は英国人が部外者に押し付けられているものではないのか。こういった不毛な批判合戦はそろそろやめるべきだろう。

こんなことを続けていても、人権屋や左翼陣営を利するだけである。

神谷 匠蔵

1992年生まれ。愛知県出身。慶應義塾大学法学部法律学科を中退し、英ダラム大学へ留学。ダラム大学では哲学を専攻。