仕事に疲れたら読んでもらいたい本

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講演中の小林かな(写真中央)

アゴラで出版事業を手掛けることをリリースしてから、出版社の編集者と知り合う機会が増えてきました。書籍関連の記事を書く機会も増えてきたように思います。

高円寺にポエムピースという出版社があります。社長のマツザキヨシユキ氏は、以前に大手出版社の経営に携わっていた経歴を持ちます。ここ2年くらいの付き合いですが、書籍の切り口が斬新なことにいつも驚かせれます。

若くして自殺をした息女の詩集を、両親のインタビューとともに刊行して世の中に自殺の悲惨さと命の尊さを訴えてみたり、プロ詩人家の視点で日本国憲法を読み解いて精神の気高さを訴えてみたり。何しろ切り口が斬新なのです。

そんな、マツザキ氏が渾身の一冊を上梓しました。『わたしは今日やっと休みです』 (小林かな/著)です。小林かな(以下、小林)は、アートモデルとして著名なのでご存知の方がいるかも知れません。

全国の写真家・カメラマンに人気を博しており、もっとも予約の取れないモデルとして知られていたそうです。自らが参加した作品での受賞、入賞実績も豊富です。2009年にはオスマンサンコン氏と「24時間テレビ」(日本テレビ)へのライブ出演の経験もあります。

作品の受賞歴の一部を紹介しますと、「JPA日本写真作家協会展2014年,2015年優秀賞」「JPS日本写真家協会展 2014年入選」「国展2016年入選展示」「関西二科展2016年入選展示」「写GIRL展2011年以来、毎回入選入賞多数」などがあります。

■知っているようで知らない身近な人とは

本書は一貫して、「人が生きるためには自己理解が重要である」という視点で構成されています。「生まれてから今日まで一時も離れず一緒に過ごしてきたのは誰なのか」「知っているようであまり知らない人って誰なのか」。人は自分自身を知らなすぎるので、自己理解を高めなくてはいけないという論調で流れていきます。

本書を読む限り、小林の人生は過酷であったように思えます。そしていまは、自らの人生を冷静に振り返り「人が生きるためには人生に責任を負わなければいけない」と述べています。人生を決定づけるのは自分自身であるということです。

「自分の心が自分のすべてを許したら、強くなる方法はそれしかないことがよくわかるはずです。ただ自分をみつめて、ずっと質問してよく観察することです。そして誰よりも丁寧に向き合った時、自分の可能性に驚くはずです。なぜ光をあててこなかったのかと後悔するかもしれません。」(小林)

また、小林は、本書内で自己理解を高めるには自己肯定が必要であると述べています。自己肯定とは、自己をすべて受け入れることを表します。

実はこの考え方は、現代心理学においても確立された考え方です。心理学者のアドラーは、フロイトのリビドー説(人は過去によって規定され、自分で未来の自分自身をコントロールすることはできない)に真っ向から異を唱えたことで知られています。

アドラーの説は「人の行動は、遺伝や育て方によって規定されない」というものでした。「人は自らの意志で行動を決めて人生を変えることができる」ことを肯定した考え方になります。これは「目的論」「自己決定性」として当時の学会に大きなインパクトを与え、現代心理学のスタンダードになりました。

本書では、小林が人生を審らかに語りながら、その時折に合わせた、やさしくシンプルで当たり前な言葉が提示されていきます。非常に分かりやすいので、多くの人に共感されるのではないかと推測します。

■本日のまとめ

アドラーは人生が困難ではない理由を次のように説きます。「人生が辛く苦しい」のではなく、人は自分の手で「人生を辛く苦しいものにしている」。人生を決めているのは「運命」や「過去」ではなく、自分自身だということ。すべての答えは自分のなかにあるのです。

最後に小林のメッセージを引用し結びとします。

「わたしは、この世界のすべてのことが、ひとつ残らず、自分の投影であり責任であり、そして覚悟だと思っています。ドタキャンが起こるのも、虫に刺されるのも、すべては現実を創り出しているわたし自身です。われ奢るべからず。だが、歓喜せよ!最高だよ。」

「できないことはない。人はどんなことでもできる」はアドラーの言葉ですが、小林もユニークな言葉を残しています。「自分をみくびってはいけない」と。

尾藤克之
コラムニスト

PS

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