時々ニュースでも取り上げられる「保育士の配置基準」。
「保育士の配置基準」って何でしょうか? 保育園には、何人の保育士さんがいるの?全員が保育士ではないの?今回は、意外に知らない、認可保育所の「保育士の配置基準」について取り上げます。
子どもの年齢によって「保育士の配置基準」が違う
「保育士の配置基準」=必要な保育士の数という意味です。
まず、第一に押さえておきたいのが、この「保育士の配置基準」は、国によって最低基準が決められているということ。
児童福祉法第45条の規定に基づき、「児童福祉施設最低基準」として定められています。
具体的に、認可保育所の保育士数の最低基準は下記のように決められています。
基本的に年齢が上がれば上がるほど、保育士の配置基準は少なくなります。
これに加えて、「定員90人以下の施設にあってはこの定員のほかに1人以上の保育士を配置しなければならない」「常時2人を下回ってはならない」という基準があります。
第二のポイントは、認可保育所の場合は自治体(市区町村)が運営していますので、各市区町村がさらに厳しい配置基準を定めることも可能だということ。
国の基準を下回ることはできませんが、上乗せして事業者に保育士の配置を求めることができるのです。例えば、世田谷区や杉並区では1歳児5人に対して保育士1人という基準になっています。
少し前に下記のようなニュースが出たことを覚えていますか?
保育士の配置基準、緩和を=小規模施設は定員拡大-待機児童解消へ緊急対策・政府
保育所の職員配置や面積の基準をめぐっては、保育の質を保つため自主的に厳しい基準を設けている自治体がある。
例えば、「1、2歳児6人につき保育士1人」という国の基準に対し、東京都世田谷区などは「1、2歳児5人につき保育士1人」としている。
政府はこうした自治体に対し、国基準の範囲内で弾力化を求める。
記事内にもあるように、これは「国より厳しい基準を定めている自治体への緩和」を求めるものでしたが、「保育の質の低下につながる」として物議を醸しました。
※ここでいう「保育士」とは児童福祉法第18条にもとづく国家資格を持っている人のこと。保育士資格を有していることに加え、都道府県の保育士登録簿に登録されていることが必要です。雇用形態は問いませんので、常勤でなく、非常勤や派遣保育士などでもOKです。
保育士の配置基準を守るには
各保育所は、子どもの定員に合わせて、保育士を配置すれば足りるでしょうか?
実際は、定員に合わせた配置基準より多い人数の保育士を確保しなくては、基準を守った運営ができません。
定員99名、年齢別保育を行っている認可保育所を例にしてみましょう。
0歳児 9人 保育士3人
1歳児 18人 保育士3人
2歳児 18人 保育士3人
3歳児 18人 保育士1人
4歳児 18人 保育士1人
5歳児 18人 保育士1人
合計すると、保育士の数は12人となります。
この保育所は保育士が12人いれば運営できるということでしょうか。
7:30-19:30開所の保育所では、実際のシフト例は、下記のようになります。(図は筆者)
このシフト例では、保育士が16人必要です。
子どもの定員ピッタリの保育士数では、運営できません。
表から分かる通り、延長保育を実施していて、保育所の開設時間が8時間を超える場合は、保育士はシフト勤務になりますので、各時間帯で配置基準を守れるだけの保育士を確保しないといけないのです。
他にも、保育士が休暇を十分にとれるように、1日の中できちんと休憩時間を確保できるように、と考えると余裕をもった保育士の人員配置が不可欠です。
また、実際に配置基準どおりの保育士数で安全な保育ができるかといったら別の話。
お子さんを育てていらっしゃったり、保育が身近な方には想像できると思いますが、例えば、よちよち歩きで、発達の個人差も大きい1歳児6人を1人で保育したり、3歳児20人を1人の保育士がみることは、実際とても難しいですよね。
そこで、多くの保育所では、最低基準にプラスして保育士や資格のない保育補助のスタッフを配置しています。
上記の表では、朝夕の時間帯を中心に、保育補助のスタッフを4人配置しています。
保育士の確保は、とても大変
しかし、都心部で保育士の有効求人倍率が66倍という中で、保育士の確保は、運営事業者にとっては、大きな課題となっています。
保育士が確保できなかったため、認可保育所が開園できなかったという事例もあるほど。
また、このようなニュースも報じられています。
認可保育所は運営基準を満たしているかどうか、児童福祉法に基づき、自治体の監査を定期的に受けている。朝日新聞がそれぞれの自治体に監査結果を尋ねた。
指摘があったのは、東京都と仙台、さいたま、横浜、川崎、名古屋、京都、大阪、福岡の8市。札幌、神戸、広島の3市はなかった。毎年、全施設を訪問して監査する自治体もあれば、数年に1度の自治体もあり、自治体間の単純比較はできないが、東京(47件)、川崎(29件)、福岡(24件)、横浜(11件)が多かった。
東京都は12年度の11件、13年度の10件が、14年度は26件に増えた。朝や夕方に不足する事例が多かったという。都の担当者は「保育所が増え、保育士の確保が難しくなっているからではないか」と話す。
福岡市では、13年度からそれまで口頭で指導していたケースも文書で指摘するように監査方法を変え、指摘が12年度の1件から13年度は9件、14年度は14件になった。担当者は「保育時間が長くなり、シフトのやりくりが難しいケースがあるようだ」と話す。
このように、認可保育所であっても、保育士の確保ができず、園運営に支障をきたしている園もあるようです。
※ちなみに、認可外保育施設には保育士の最低基準は定められていませんが、保育スタッフ数について指導監督要項などで基準が設けられています。一定の指導監督基準を満たせば証明書が交付されるので、施設選びの参考までに。
配置基準の緩和は「仕方ない」?
待機児童は増えている、保育所の新規開設は喫緊の課題、でも保育士は足りない…ということで、提案されたのが冒頭の配置基準の緩和です。これを元に、各自治体では国の最低基準に合わせて、保育士の配置基準を切り下げる可能性があります。
その他にも厚労省は以下のような通知をだしています。
『児童福祉施設の設備及び運営に関する基準及び家庭的保育事業等の設備及び運営に関する基準の一部を改正する省令』
抜粋するとこんな感じです。
①朝夕の時間帯における保育士配置基準の緩和
②幼稚園教諭、小学校教諭、養護教諭の普通免許状を有する者を保育士とみなす
③8時間を超えて開所する保育所において、認可定員に係る配置基準を超えて保育士の配置が必要な場合に、保育士資格がないもの(都道府県知事が保育士と同等の知識及び経験を有するとみとめるもの)を保育士とみなすことができる
④上記2、3の場合でも、保育士資格者は総数の3分の2以上であること
この通知に対しても、冒頭の施策同様に、「保育の質の低下」につながるという意見が多く出ています。特に①、②についてはニュースで大きく取り上げられましたので、覚えている方もいらっしゃるかもしれません。
もちろん、「配置基準の緩和」が一概に「保育の質の低下」につながるとは言いきれません。
例えば、①の朝夕の時間帯における保育士配置基準の緩和。
子どもが1人であっても保育士が2人いなくてはいけない、という基準の緩和ですがきちんと保育スタッフの数がいれば、それが保育士でなくても安全な環境は確保できる、という考え方もできます。
保育士不足の解消のために、省令の中にも記載がありますが、2015年から「子育て支援員」という民間資格の認定制度も導入されました。
これは、育児経験のある主婦を対象とした資格で、保育士と違い、試験に合格するのではなくて20時間程度の講習を受けることで取得できます。
こういった資格認定者を、保育士に代わって保育の担い手としよう、というわけです。
これらの政策の是非についてはここでは述べませんが、そもそも、下記のように他国の職員配置数を見てみると、決して、日本の配置基準が厳しいわけではなさそうです。
【イギリス】
施設型ケア:2歳未満児は3人対1人、2歳児は4人対1人、3~7歳児は8人対1人。
2歳未満児は3人対1人、2歳児は4人対1人、3~7歳児は8人対1人。
ナーサリー・スクール、ナーサリー・クラス(3~5歳児):13人対1人。
レセプション・クラス(4歳児):30人対2人。(教員とレベル3以上の補助職)
【アメリカ(州により異なる)】
一般的に乳児4~6人対1人。プリスクール:10~20人に1人。2,3歳児はこの中間くらいの比率
【デンマーク】
0~2歳は3.3人対1人、3~5歳は7.2人対1人。
【フィンランド】
3歳未満は4人に対して1人、3歳以上は7人に対して1人。
配置基準緩和以外に、保育士不足を解消する方法
保育士不足の解消には、「保育士以外でも保育ができるように決まりを変えよう」という方法と「保育士のなり手を増やそう」という方法があります。
今回ニュースになった「配置基準の緩和」は、前者のアプローチです。
もちろん、政府は、両輪で進めるべく、基準緩和策だけでなく、2016年から保育士試験の年2回化を実施したり、少しずつ保育士の処遇改善にも取り組んでいます。
しかし、現在、保育士の資格を持ちながら、保育の仕事に従事していない潜在保育士は68万人いると言われ、就業を希望しない1番の理由として「仕事の割に保育士の賃金が低いから」という調査結果が示すように、保育士のなり手を増やすためには、保育士の働く職場環境の改善は必須です。
【参考】保育分野における人材不足の現状:厚生労働省資料
ほいQ第2回でも取り上げたように、保育士の給与は他の仕事に比べて明らかに低水準です。
緩和策のアプローチは、「すぐできてお金もかからない」かもしれませんが、保育士不足の問題を解決するためには、保育士の給与をあげたり、休暇を取りやすくしたりといった根本的な課題を、避けては通れません。
著者プロフィール
- ほいQチーム
- 保育のニュースがもっと身近に。今さら聞けない、保育制度にまつわる素朴なQ&Aを、わかりやすく解説します。
編集部より:この記事は認定NPO法人フローレンス運営のオウンドメディア「スゴいい保育」より、2016年8月26日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「スゴいい保育」をご覧ください。