ハンガリー政府「キリスト者を救え」

北アフリカ、中東から難民、移民が欧州に殺到する一方、少数宗派のキリスト信者が迫害され、その数はイスラム教徒のそれを大きく上回っている。世界で1億人以上のキリスト信者が独裁政権や他宗派の信者たちから迫害され、弾圧されているという報告が公表されている。

▲ハンガリーのオルバン首相(ハンガリー政府公式サイトから)

例えば、シリアやイラクではイスラム教スンニ派過激テロ組織「イスラム国」(IS)によってキリスト信者、少数派宗派たちが迫害されている。また、ソマリア、アフガニスタンでも同様だ。ナイジェリアではイスラム過激派テロ組織「ボコ・ハラム」による襲撃が多発している。中国でもキリスト者を含む宗教者への迫害が増えている。北朝鮮だけでも5万人から7万人のキリスト者が強制収容所に送られている。世界のキリスト者の迫害状況を発信してきた非政府機関、国際宣教団体「オープン・ドアーズ」が公表するキリスト教弾圧インデックスでは北朝鮮は毎年、最悪の「宗教弾圧国」だ。

イラクでは2003年のイラク戦争前までは約100万人のキリスト信者がいたが、現在は「まったく存在しなくなった」といわれるほどだ。イラクのキリスト教の拠点だった同国北部のモスル市では、キリスト者たちは拉致されたり、殺されたりしている。ヨルダンに約7000人のキリスト信者が避難している。彼らはイラクから逃げてきた人々だ。

イエス・キリストが十字架にかけられた後、選民ユダヤ民族は世界的に迫害されてきた。そして今、「信仰の租」と呼ばれたアブラハムの出身の地、中東地域を中心にイエスの福音を信奉するキリスト信者が迫害され、避難しているわけだ。「オープン・ドアーズ」によれば、「キリスト信者への迫害状況は2000年間のキリスト教歴史でも最悪」という。
迫害されるキリスト者を守れ、ということで、ハンガリー政府は、「キリスト者支援担当の国家事務局」を設置するという。ハンガリー政府寄りの日刊紙 Magyar Ido が6日報じた。同国のバルガ・ミハーイ経済相は前日、「ハンガリー政府は新国家事務局設置のために約300万ユーロの予算を充てる」と表明済みだ。具体的には、「世界的に迫害されるキリスト教グループを支援するために利用される。新設される事務局の権限や役割についてはまだ決まっていない」という。なお、ハンガリーのローマ・カトリック教会司教会議は8日から開始された秋季会議でオルバン政権の提案を歓迎している。

ハンガリー政府が迫害されるキリスト者の支援目的で国家事務局を設置することを決定した直接の契機は、駐バチカンのハンガリーのエドアード・ハブスブルク大使によると、オルバン首相のバチカン訪問(8月28日)という。同首相はフランシスコ法王との会談に影響されたという。
ハンガリーでは過去、迫害されるキリスト者の支援のために査証を発行するなどの支援活動が行われてきた。ハブスブルク大使は、「迫害されるキリスト者の最善の支援は自国に留まることができるようにすることだ。わが国は8月、イラク北部のアルビール市でキリスト教学校の開校を支援してきた」と実績を紹介している。ちなみに、ハンガリーでは国民の約39%がカトリック信者、12%がカルヴァン派だ。オルバン首相はプロテスタント派の教会に所属している。

ハンガリー、その指導者オルバン首相はブリュッセル主導の欧州連合(EU)の政策に批判的で、難民の分配政策に対してもいち早く文句を言った“EUの異端児”のイメージが強いが、今回のキリスト者救援担当の国家事務局新設はEU加盟国では初めてのことであり、その実行力は評価しなければならないだろう。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年9月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。