「日本で一番チャレンジに優しい町」島根県雲南市

東の鯖江(福井県)、西の雲南(島根県)。最近、若手起業家が活躍しているとよく言われる田舎の町です。

第69回地域力おっはークラブは、雲南市の幸雲南塾1期生で、現在は同塾を運営しているNPOおっちラボ代表理事の矢田明子さんにお話を伺いました。


(写真提供NPO法人おっちラボ。以下同じ)

◆ここがすごい!雲南市のデータ
・553㎢(東京23区の約9割)の面積に、約40,000人が居住。
・6年前から市が幸雲南塾(=学びと実践を繰り返す機会を通して、地域を良くすることに継続して成果を出すことのできる人材を育成する塾)を開催。
・幸雲南塾の卒業生を中心に、コミケア(=中山間地で24時間365日の訪問看護ステーション)など町の課題を解決する創業が次々と誕生

6年前に幸雲南塾が始まったときは、「あなた(矢田さん)は、雲南の人じゃないですよね。なんで来たの?」と、うさんくさい目で見る関係者も少なくなかった。

今では、外部の大学生が地域の大人のサポートで学び、また、その姿を子どもたちが日常的に触れることで、子ども・若者・大人のチャレンジが連鎖している。

雲南市で暮らす若者は決して多くないため、幸雲南塾では、市内だけではなく、市外からも塾生を受け入れている。毎年20名程度の若者が活動するが、その中には、隣町の出雲市でやるようなプランも生まれてくる。

最初は「雲南でやってくれるんですか?」としつこく聞かれるのが私自身も嫌だった。信頼関係がないと、その人たちのために動くことはなかなかできない

だから、私は後輩の参加者に「他のところでやりたければ、それでもかまわない。」、地元の人には「この人たちのためにやりたいという気持ちが生まれれば、自然と雲南でも事業を始める。だから2・3年、見守ってください。」と声をかけている。その環境調整が、幸雲南塾の運営の委託を受けているおっちラボの私の仕事だ。

地域の人が見守ってくれると、感謝の気持ちが生まれてくる。それは、自分への応援であり、チャレンジにやさしい町になる。チャレンジしていいよと言える空間をつくることが大切だ。

おっちラボでは、幸雲南塾の参加者に、TTT(徹底的に頼れ)を唱えている。チャレンジさせてもらえなかったら、始まらない。地域の人たちは、徹底的に頼られることで、チャレンジに寛容になっていく。

幸雲南塾から生まれた起業の一つが訪問看護ステーション「コミケア」。コミケアのおかげで、1年間で60名の方々が自宅に帰ることができた。

訪問看護は、病院で20年・30年看護師をやらなければできないと考えられていた。「コミケア」を企画したメンバー3人は全員20代・30代。みんなに、「そんなの、できっこないよ」と言われた。

看護師は医師の指示がなければ動くことができない。初めは、医師も忙しいので嫌がっていた。地元の人は「お父さんお願いします」と人情に働きかけたら動いてくれたが、医師はそれでは動いてくれなかった。だからロジックをつくることにした。一時的にはペーパーの事務が増えるかもしれないが、これまで5回往診していたところが、4回は看護師が行くので1回で済みますよ・・・。と、10か月かけて説得した。

今では市内の半分の医者が協力してくれている。共感を生むため、立場や役割を立てていくことも重要だ。その人がそう振舞うためにはそれなりの理由がある。だからその人を立てて、見守ってくださいといつもお願いしている。

地域の人たちは幸雲南塾やコミケアなどに対して関わり方が分からない楽しみ方が分からない人も少なくない。だから楽しまざるを得ないように巻き込んでいく

こういうイベントやりますだけではなく、「草の抜き方が分からないんで、お手伝いお願いします」「ご飯作ってくれませんか」地域の人が得意なことをお願いしていく。そうすると味方が増えるようになってくる。そして、地域の人たちが次から次にお客さんを紹介してくれる。

これからの看護師、とりわけコミュニティナースには、看護の技術とともに地域との関係性の構築が求められている。人口密度は低いが、人好密度は高いのが雲南だ。チャレンジにやさしい町は、チャレンジについて語れる市民が多い町だ。今では、そのノウハウを新宿に”輸出”して、コミュニティナースを養成するまでになった。

実際に手を動かすだけでなく、拍手をするのも役割だ。そこにフィードバックがあればなお良い。応援の成功体験をつくることが大切ではないか。

長島町でも、できるまで帰れませんなどさまざまなプロジェクトを通じて、応援する、チャレンジしやすい環境をつくっていきたい。矢田明子さんの話を聞いて力がわいてきました。



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編集部より:この記事は、鹿児島県長島町副町長、井上貴至氏のブログ 2016年9月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は井上氏のブログ『「長島大陸」地方創生物語~井上貴至の地域づくりは楽しい~』をご覧ください。