「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」で、日銀の損失は急拡大している。その最も代表的な事例が、日銀が「オーバー・パー」(額面を上回る価格)で長期国債を購入(買いオペ)することにより抱える損失である。例えば、日銀が額面100円の国債を市場から101円で買いオペし、償還満期まで保有すると、100円しか償還されないので1円損をする。
では、実際の長期国債に関する損失(オーバー・パー)はどのくらいか。まず、上記事例の額面価格(100円)に相当する長期国債の総額は、「日本銀行が保有する国債の銘柄別残高」から把握できる。
また、上記事例の取得価格(101円)に相当する長期国債の総額は、日銀の「営業毎旬報告」から読み取れる(注:厳密には、日銀は2004年度から長期国債の評価方法を低価法から償却原価法に変更し、額面価格を上回って購入した分は毎年均等に償却している。このため、営業毎旬報告は、償却を行った後の値)。
この両者(均等償却後の取得価格、額面)の総額の推移(2012年10月31日―2016年8月31日)を表したものが、以下の図表である。
図表の2016年8月31日時点において、日銀の「営業毎旬報告」に計上されている長期国債(均等償却後の取得価格)は339.55兆円である一方、「日本銀行が保有する国債の銘柄別残高」(額面ベース)は330.73兆円となっている。
これは、保有する長期国債で約10兆円(厳密には8.82兆円)の損失(オーバー・パー)を抱えており、それは日銀の自己資本(=引当金勘定+資本金+準備金)約7.6兆円を既に上回っていることを意味する。
なお、2015年11月26日、政府・日銀は、日本銀行法施行規則(平成10年大蔵省令第3号)や日銀の会計規程を改正し、国債の償還や売却に伴う損失などに備え、債券取引損失引当金の拡充を進めているが、それが追い付いていない現状を示す(注:債券取引損失引当金は図表の自己資本(引当金勘定)の一部で、日本銀行法施行令第15条及び同令附則第1条の2、日本銀行法施行規則第9条―第11条及び同規則附則第3条並びに会計規程第18条及び同規程附則の規定に基づき計上)。
日銀は2016年9月20日・21日の金融政策決定会合で総括検証を実施する予定だが、このような現実も念頭に、金融政策の見直しを行うことが望まれる。
(法政大学経済学部教授 小黒一正)