「神の召命したジャーナリズム」とは

AI(人工知能)の登場や職場のデジタル化で人が汗を流しながら仕事をする職場は次第に減少してきたが、大多数の人はその人生の多くの時間を仕事に投入している。その時間が喜びで溢れているのなら、その人の人生は祝福されている。逆に、強いられた、好ましくない時間となるならば、その人の人生は辛いかもしれない。その意味で、どの仕事に就くか、職業を選択するかは人生にとって非常に重要なテーマだ。誰もが自分に適した職場で働きたいと願う。


▲「イタリアのジャーナリスト協会のメンバーを迎えるフランシスコ法王」(バチカンの日刊紙「オッセルバトーレ・ロマーノ」から)

ところで、世界最大のキリスト教宗派、ローマ・カトリック教会のローマ法王フランシスコは22日、「イタリア・ジャーナリスト協会」の約400人のメンバーを招き、「神の召命したジャーナリズム」について語った。その内容を紹介する。

「真理を愛し、人間の尊厳を重視する責任感のあるジャーナリズムが願われる。言葉は人を殺すこともできる。ジャーナリズムは殺害武器であってはならない。うわさ話や風評を広げることはテロリズムのやり方だ。プリント・メディア、テレビ・メディアはデジタル・メディアの台頭でその影響力を失ってきたが、人々の生活と自由で多様性のある社会にとって依然、大切だ」

「ジャーナリストほど社会に大きな影響力を有する職業はない。それ故に、大きな責任を担っている。ジャーナリズムは、人間社会の発展と真の市民社会構築に貢献することが願われる。その召命を受けた人たちは民主社会の番人のような立場だ。ジャーナリズムは真理を愛し、その仕事を通じて真理の証人とならなければならない。自身が信者であるかどうかは問題ではない。真理に忠実であり、自主独立したレポートはそれだけ価値がある。ジャーナリストは政治的、経済的な利益に屈してはならない。全ての独裁者はメディアを自身の管理下に従わそうとすることを我々は知っている」

そのうえで、「ジャーナリストが批判し、問題点を糾弾することは合法的だ。ただし、メディアは今日、相手を批判し、翌日は別の問題を扱うが、メディアに不法に批判され、中傷された人は永遠にそのダメージを抱えることになる。ジャーナリズムの職業では人間の尊厳を重視することが非常に大切だ。なぜならば、記事の背後には、関係者の人生がかかっているからだ。相手の人生とその感情を大切にしなければならない」と警告する。

そして、難民問題にも言及し、「難民に対する不安を煽るべきではない。彼らは飢餓と戦争から逃避を強いられてきた人々だ。言葉で対立や分断を煽るのではなく、文化の出会い、和解を促進することに貢献すべきだ」と述べている。

フランシスコ法王は「神の召命したジャーナリズム」を主張し、その使命感と責任を求めているわけだ。もちろん、ジャーナリズムも数ある職業の一つだが、社会への影響力を考えれば、それに就く人々の責任と役割はやはり大きい。

英国の思想家、ジョン・アクトン卿は、「権力は腐敗する、絶対的権力は徹底的に腐敗する」といったが、“第4権力”と呼ばれるジャーナリズムの腐敗は国家、社会に計り知れない悪害をもたらす。朝日新聞の慰安婦報道はその代表的な例かもしれない。フランシスコ法王のメッセージはジャーナリズムの世界に生きる当方も肝に銘じなければならない内容だ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年9月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。