日銀が何故にこれまで「なるべく市場メカニズムに委ねることが望ましい」としてきた長期金利を「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」によって金融政策の目標に据えたのか。
これにはいろいろと複雑な要因が絡んでいると思われる。これまで日銀は大胆な国債買入などにより量の拡大で、人々の物価予想に影響を与えて、物価目標を達成しようとした。しかし、今回発表された「総括的な検証」で示されたように原油安など外部要因によって目標が達成できなかったとした。しかし、現実には金融政策の量によって物価を動かすことにそもそも無理があった。
その量についても限界が見えてきた。金融機関の保有国債を引きはがして日銀が買い入れるにも限界がある。そこで取った手段がマイナス金利政策であったが、長期金利までもがマイナスとなってしまい、国債での資金運用が難しくなった。日銀の金融政策に対する金融機関からの批判的な声が強まった。さらに危惧されたのは国債の流動性の低下であった。これらを解消するために取られた手段が今回の長期金利を政策目標に据えることであったと思われる。
この一番の目的は日銀の金融政策の目標を量から金利に変えることであった。これにより、量つまりマネタリーベース目標による制約を受けることがなくなり、国債の買い入れについて柔軟な対応が可能となった。さらに日銀が長期金利をも政策目標に置くとの思惑だけで長期金利を上昇させることとなり、それ以上に超長期と呼ばれる20年を超える国債の利回りが大きく上昇することとなった。これで金融機関の資産運用で国債が活用できるようになる。長短金利差を大きくすることで利ざやを稼ぐことができるため、金融機関にとってもこれは良い環境となる。
今回の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の目的は、このような金融機関や国債市場への配慮、さらには量に縛られた政策から脱することで、大胆な金融緩和政策をもう少し長く続けさせようとしたものである。これはつまり今後の追加緩和はよほどのことがない限り難しくなるとも言える。
ただし、金融政策で動かせないとした長期金利を本当に動かせるのか。国債の利回りは景気や物価、需給バランスなどで動くが、何かしらのきっかけで長期金利が大きく変動した際に日銀は対処できるのか、といった疑問もある。もし日銀が誘導できるとしたならばそれはそれで国債が官製相場となってしまうリスクもあり、国債市場の機能がむしろ失われるリスクも存在するのである。
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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年9月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。