自動車燃費競争は日本主導で進んでいると考えてもよいでしょう。軽自動車のような車体重量の軽さから燃費を良化させるもの、ハイブリッドやEVのような革新技術で燃費を向上させるもの、アイドリングストップなど新技術で燃費を向上させるものなど様々で自動車各社の努力はそれこそ乾いたぞうきんを絞るようなレベルなのだろうと思います。
最近は三菱自動車の不正燃費問題で水を差したような感じで、新たなる燃費向上に繋がる技術のニュースは少なくなってきていますが、日産が先日発表したレンジエクステンダーは話題になりそうです。同社の主力車である「ノート」にこのシステムを搭載させることで同型の非搭載車より燃費が4割ほど向上するとされています。
このレンジエクステンダー搭載車はガソリンを必要としますが、それは電気エネルギーに転換するだけのために使い実質的には電気自動車であります。ただ日産ではハイブリッドとして考えているようです。技術的には新しいものではなく、GMのボルトが2011年型から搭載していますし、BMWのi3もオプション車があります。しかし、日本ではほとんど知られていないため、市場発掘の起爆剤となるかもしれません。
一方でこのような燃費競争の結果、燃費30キロ、40キロが当たり前になると日本の消費者市場では刺激が慢性化されて販売に寄与してこなくなるとみています。これは人間の心理的な問題であります。新しいものに対して飛びつき、それが経済的に優れていれば売り手はさらに深堀をし、買い手はベストなものを探し出すという好循環が生まれます。ところが技術革新が一巡し、消費者は深堀に疲れてきます。これを私は「取り残された消費者」と称しています。つまり、消費者すべてがベストオブベストを求めるのではなく、ある程度、例えば7割とか8割の水準であれば大半の消費者の満足度は高まり、それを超えるものを求める人は急激に減るという仮説であります。
多分、統計的に分析すればグラフ上である程度の傾向を描くはずでほとんどの人は一定枠に収まり、それ以上を求める人は標準偏差から外れる傾向が出てくるのではないでしょうか?では、このグラフを更にアメリカ人と日本人で比べると中心線がずれるはずで日本人は車に乗る距離が圧倒的に少ないはずなのに燃費にこだわり、アメリカ人のこだわりはより少ないはずです。どなたか研究していただければ面白い結果が出ると思います。
この仮定が正しいという前提でさらに考えを進めると日本人は数字による判断が好き、アメリカ人は感性による判断をもっと取り入れるということでしょうか?例えば私はかつてバンクーバーとシアトル郊外を数年間に渡り毎週通っていました。当初、日本車に乗っていましたが、とても疲れてしまいました。ハイウェイを巡行130キロぐらいでかっ飛んでいましたので小さいクルマですと安定感もなく、まさにゼロ戦で突っ込んでいくような雰囲気なのです。その後、フルサイズのアメ車、しかもクライスラーが持つ高速運転時に車体が沈み込む技術のおかげで安定感抜群になった時、これは動く応接室だと思いました。もちろん、ボディが大きい分130キロで走ってもぶれずスピードを感じさせないものでした。
先日、日本の某大手で某航空機メーカー向けに炭素繊維を開発されている方に「炭素繊維は車に応用できるのですか」と単刀直入に聞いたところ、「ごくわずかの燃費向上のために100万円も車体価格が上がるのは非現実的です」とバッサリ斬られました。レーシングカーのような特殊な車には特殊な目的があるので価格以上のこだわりがあるけれど燃費向上とは結局、消費者の懐を温かくする術であって、そのために車体価格が上昇するのは本末転倒ということでしょう。もちろん、こんなことをいえば環境にやさしくする意味もあるとお叱りを受けるかもしれませんが。
燃費へのこだわりが薄くなっているもう一つの理由は原油価格が低迷していることであります。いつかは上がるといいながらなかなか上向かない原油価格。今週にOPEC,イラン、ロシアが非公式会議で減産を再び探るようで現在、下地ならしの会議が進んでいるようですが、下馬評ではあまり期待は持てないそうです。案外、期待していない会議でびっくりするよう合意がなされたりするものなのですが、いづれにせよ技術革新は燃費に対する消費者の感性を鈍くさせてきていることは事実だと思います。
そういえば日本でなにげなく渋滞で並ぶクルマを見ていたところ見事にワゴンとハッチバック型ばかりです。そういうカナダはSUVが多いのですが、日本ほどみな同じようなクルマが並んでいるのはある意味、奇妙な光景であります。燃費の次はいかにたくさんの人やものを積み込み、車内容積を増やし、心地よい空間を提供するのか、という競争なのでしょうか?ならば、いっそのこと容積の大きさを燃費と並列したら売れるかもしれません。
では今日はこのぐらいで。
岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 9月25日付より