噛みあとの応急手当に冷えピタはNGな訳と噛みつかせない保育

保育中に「かみつき」があったら、噛まれた子どもの患部を早々に冷やすことが大切です。患部を冷やすにはアイスノンではなくて、氷嚢(ヒョウノウ)が周辺もふくめた患部全体に均等に密着するのでおすすめです。

噛み跡になってからでは、残念ながら噛み跡を”消す”ことはできません。噛み跡の正体は内出血なので、噛み跡になる前に患部周辺の熱を奪って、患部周辺の血流を抑制することで跡が残りにくくなります。

冷えピタ(冷却ジェルシート)が適さない理由

冷えピタとは、数ある「冷却ジェルシート」の中のライオン株式会社の商品名ですが、保育現場では冷却ジェルシートの総称として使われることが多いため、ここでも便宜上、読む人のイメージ重視で記載しています。

冷却ジェルシート(れいきゃくジェルシート、英文名称Cooling Gel Sheet)は、蒸発熱の作用を応用して発熱時などに冷感を得たり体温を下げることを目的とした湿布状の商品。
1994年10月には小林製薬が「熱さまシート」を発売。のちにライオンの「冷えピタ」、久光製薬の「デコデコクール」などが発売されている。これらは爆発的な人気を博し、現在では日本国内のみならず海外においても広く知られる商品となった。(Wikipedia「冷却ジェルシート」)

保育現場でも、冷えピタは発熱や打撲を冷やすには適さないと言われるようになったものの、盲目的に冷えピタを使用する保育者が減る様子は見えません。なぜダメなのかが漠然としか語られていないからかもしれません。

冷却ジェルシートの窒息事故は切り分けて考える

冷却ジェルシートを使わない理由に、窒息事故の可能性が語られています。しかし、効率よく冷やすための道具としての価値を感じている人からすると、自分の身の回りで起きていない事故の心配より、(私は)気をつけているから大丈夫という気持ちの方が大きくて、使わない理由にはなりません。

熱さまし用ジェル状冷却シートの使用に注意
-生後4ヶ月の男児が重篤な窒息事故-
2004年4月下旬北海道内において、発熱した生後4ヶ月の男児の額に、熱さまし用ジェル状冷却シート(以下、「冷却シート」という。)を貼り看護していた母親が、夕食の後片付けのためしばらく側を離れたのちに戻ったところ、冷却シートが男児の口と鼻を塞ぎ、窒息状態となった。(国民生活センター)

事故の予防のためにまず道具の安全な使い方が大切ですが、使う以上は事故をゼロにはできません。そもそも使用目的に道具が不適切であるならば、効果がないことの理由を認識して使わないことが一番安全だと言えるでしょう。

冷えピタが冷たく感じるのはメントール効果?

冷却ジェルシートには冷たさを感じる神経を刺激するメントール成分が含まれています。肌への刺激が強すぎてトラブルが起きないようにメントールの量が控えめなのが、一般に販売されている「子ども用」です。

皮膚で感じる”冷感”を増強・持続させる機構とその対応成分を発見 – 資生堂(マイナビニュース)
メントールは肌に浸透し冷感センサに結合すると、冷感センサが作動(活性化)して電気信号が流れ、神経を経て脳に伝達され「スースー」とした冷感を感じさせる。一方、揮発性のあるアルコールは、揮発するときに肌の熱も奪うため「ヒンヤリ」とした冷感を感じさせる仕組み

冷却ジェルシートとは、そもそも患部から熱を吸収するために各社特有のジェルを備えています。直接、肌にシートを密着させて、手軽に使ってもらうために、ゆっくりと少量だけ熱を吸収するようにできています。

しかし氷嚢(中の氷水)で熱を奪うことと比べると非常に力が小さく、同じメントール成分を含んだ湿布と比べても、メントールの量が少ない分、神経を刺激し血流や炎症を抑制する力はないと考えられます。

冷却ジェルシートの役割は手軽に使ってもらうこと

まとめると、氷は直接、肌に密着させると急激に熱を奪うことで冷たさを感じさせますが、凍傷になる恐れがあります。一方冷却ジェルシートはメントールによって冷たいかのように感じさせているだけなので、肌に密着させても凍傷になる恐れがありません。冷却ジェルシートは効能よりも「手軽に使える」ことを重視した製品だといえるでしょう。

打撲や噛み跡を冷やすためには、残念ながら冷却ジェルシートを有効とする情報はありませんが、一般的な保育現場でお子さんが発熱したときなど、いっときの応急処置として使用することはあってよいと思います。

以下に冷却ジェルシートの有効、無効な場面をまとめてみました

  • 無効:噛みつき、打撲といった内出血を伴う応急手当
  • 無効:病児保育、病後児保育として看病を行なう場合
  • 効果的:お迎え間近の急な「うつ熱」に対する一時的な応急処置
    ※発熱から気を紛らわせる程度に考えましょう

噛みつきは噛みつかせない「予防」も大切

保育において「噛みつき」は、発達の過程における表現のひとつなので、噛むことを積極的に防ぐというより、どちらかというと「必要なことなので、起きたら受け入れる」ように考えられているように感じます。

常に叱るような事柄ではありませんし、保育者が冷静さを欠いてしまったら保育に問題があろうと思います。関連して2014年8月15日付の読売新聞には、『かみつきの特徴と対処法』というものが掲載されていました。

「かみつき」冷静に対応…言葉未発達 思い伝えられず
健やかキッズ : yomiDr./ヨミドクター
■かみつきの特徴と対処法
・かみつきは、言葉で思いをうまく伝えられない時期の表現の一つ。言葉の発達に伴い自然に収まるので心配しすぎない
・子どもが集団でいる時は、かみつきが起きないよう目配りをする
・かまれた子には、痛みを言葉にして同調しつつ、なだめる
・かみついた子には、一方的に叱るのではなく、「~がしたかったんだね」と本人の気持ちを代弁し、行為がいけないことだと伝える
(2014年8月15日 読売新聞)

噛みつきが起きない目配りの見直しについて

集団保育の中で、噛みつきを一切放置している保育者は居ません。

しかし、見守る過程で噛む・噛まれた、がないように保育者の立ち位置として「積極的に事前に介入する」か、「介入には消極的で子どもが噛まなくなるのを根気強く待つ」ケースを比べたら、多いのは後者ではないでしょうか。

その反面、噛まれた子(かまれた子どもの親)にも、「痛みを言葉にして同調しつつ、なだめ」たり、噛んだ子について仕方のない年齢だと説明することに、今、疑問をもっている親や保育者が増えてきています。

仮に4・5歳の子どもが、1・2歳児にモノを貸さないことで噛まれたということなら、言い聞かせ対応でよいことがあります。しかし同年齢の集団で発育上逃げることが難しく、また誰が噛んでもおかしくないことが十分に判っている保育環境の中で「噛まれることは当たり前」と言ってしまえるものでしょうか。

噛みつくことは確かに発達の過程であることだけども、正直、噛まれてしまう側にとっては、噛む側の発達はあまり関係ない話で、噛んだことと、噛まれたことを同じ土俵で対応することについて見直す必要があるように思います。

著者プロフィール

遠藤登(保育安全のかたち)
保育の安全性を高め、重大な事故を防ぐために、保育現場における救命処置法ほか、ヒヤリハット分析「チャイルドSHELモデル(c-SHEL)」の教育と保育リスクマネジメントの研修を開催しています。主な著書、『保育救命-保育者のための安全安心ガイド-』(株式会社メイト)ほか。

編集部より:この記事は認定NPO法人フローレンス運営のオウンドメディア「スゴいい保育」より、2016年7月21日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。