来春オープンを迎える「作新 アカデミア・ラボ」。そのファサードの曲線がまだ鉄骨ながら、国道からも臨めるようになってきました。
「アカデミア・ラボって何をする施設ですか?」、そんなご質問をよく受けます。
「真に豊かな地球の未来を創造する“知と生命(いのち)の実験場”」それがアカデミア・ラボのコンセプトなのですが、そう答えると大抵の方は「???」という表情を浮かべ話が終ってしまいます。
確かにアカデミア・ラボは、何万冊の蔵書がある図書館とか、何百名収容できるコンサートホールといった定量的に表現できる分かり易い施設ではありません。元々、これまでの「学校」という常識を打ち破り概念を覆す教育施設を作りたいと思って取り組んでいるので、「既存の○○のような」といった表現をすることができないのです。
敢えて言えば、米国マサチューセッツ工科大学(MIT)の「メディア・ラボ」のように、年齢や個性、才能やスキル、ジャンルや民族などあらゆる違いを超えて多種多様な人々が集い、より良くより豊かでより楽しい社会を作っていくための“秘密基地”のような存在を、アカデミア・ラボは目指しています。
では、どうしてそんな“実験場”や“秘密基地”を自分たちの学校の中に作ろうと思ったのか。
理由は、3つあります。
第一は、子どもたちの自由で豊かな発想や創造力を最大限に引き出し、伸ばし、開花させたい、そのためには既存の学校にありがちな施設の中では難しいと思ったからです。
四角四面な空間の中に、決められた形の机といすが直線的にいつも変わらない配置で整然と並んでいる。そんな空間の中で、柔らかで自由で伸びやかな頭脳や発想が果たして生まれたり育ったりするのだろうか、というのが私の率直な疑問です。
四角四面な空間の中ばかりにいては、四角四面な発想やアイディアしか生まれないと私は思います。
では、直線はダメで曲線ならいいとか、整然と固定されているのはダメで、雑然と変化していればいいかというと、そうとも言えません。
一番よろしくないのは、大人による“お仕着せ”です。大人がディテールまで抜かりなく段取りし、痒くなるだろうところにまで気をきかして事前に用意してしまうのは、最悪だと思います。
ですからアカデミア・ラボという施設は、それ自体はあくまでも“未完”でなければならない。完成させるのは、そこで学び、考え、行動し、生きる子どもたち。彼らの発想や要求と一緒に、アカデミア・ラボは常に変化し続ける存在でなければなりません。
二つ目の理由は、世の中と子どもたちとの関係をもっと近づけたい、子どもたちに世の中をもっと身近に体験・体感させたいと思ったからです。
アカデミア・ラボやその周辺のガーデンには、学院外からも多くの方々が訪れることになるでしょう。ある人は子どもたちの特別授業の講師として、ある人は食育菜園の指導者として、ある人はガーデンに立つマルシェ(市場)で有機野菜や手作りスイーツを販売あるいは購入する人たちとして…
ラボに続くガーデンでは、食育菜園で収穫した野菜や地元の食材を持ちよってのバーベキューや、天体観測をしながらキャンプも行ってみたいと思います。
セキュリティや衛生管理に万全を期すことは、学校にとって何より優先されるべきことですが、その条件をクリヤした上で、学校はもっと世の中に対して“開かれた存在”になるべきだと私は思います。
学校がもっと社会に開かれた存在になれば、子どもたちはもっと社会のことを身近に感じ、世の中で起きている事柄を我が事として認識し、考察するようになります。
学校の外部から講師や指導者を迎えること、特に地域の様々な職種の方々に子どもたちを教育・指導していただくことは、とても重要な学びの機会になると思います。
学校で日々学んでいる様々な知識は、実際に自分たちが世の中に出た時にどのように役立つのか。あるいは、人生の行く手を阻む課題を解決し生き抜いていくためには、学校の中でどのようなことをどのように学ぶべきか。そうしたことを、社会と直接に関わり体験・体感することによって、子どもたちは学んで行きます。
学校でなぜ学ぶのか、何を学ぶのかを自分自身でつかみとることほど、学びに大きなモチベーションを与えることはないと思います。
第三の理由は、学校という存在ほど、社会をより良い方向に変革し未来を創造する上で大きなポテンシャルを秘めた組織体はないと、私自身が信じているからです。
作新学院のスローガン、「作新民、その“人間力”で世界を変える、未来をつくる」は、単なる掛け声ではありません。
一人ひとりの力はささやかでも、それを根気強く地道に積み重ねて行けば、世の中は必ず変えて行くことができる―それは決して綺麗事でもお題目でもなく“真実”であることを、私は子どもたちと作新学院で過ごした16年間の中、何度も身をもって体験してきました。
東日本大震災をはじめとした災害復興支援や、10年を越える足尾銅山跡地への植林、800万個にせまるペットボトルキャップの回収、約1万5千足の運動靴を回収しアフリカの子どもたちに届けた「アフリカ一万足プロジェクト」等々、思いをカタチや行動にし、それを重ね繋げていけば、ちょっとずつかもしれませんが世の中は変えられることを実感させてもらいました。
アカデミア・ラボは、地球環境保護や国内外の社会貢献活動に携わる「地球環境クラブ」や生徒会、ボランティア部やJRC部などのミーティングルームとしても使用されます。
将来的には、このラボからNPOやNGOが生まれたり、ベンチャー企業が誕生したりと、社会を変革・刷新する旗手が幾人も生まれることを心から願っています。
そしていつの日か、子どもたちの可能性や潜在能力の揺籃(インキュベーター)であるアカデミア・ラボからノーベル賞受賞者が生まれることを、私たちは秘かに夢見ているのです。
編集部より:この記事は、畑恵氏のブログ 2016年9月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は畑恵オフィシャルブログをご覧ください。