なぜ「新築マイホームマンション」は低迷、「中古投資マンション」は好調なのか?

内藤 忍

不動産経済研究所のデータによると、8月の首都圏の新築マンションの月間契約率は66.6%で好不調の目安と言われる70%を下回り、発売戸数は東京23区で前年同月比45.4%の減少となりました。一方で、都心中古ワンルームマンションの販売は引き続き好調のようです。正確なデータは教えてもらえませんが、私が購入した販売会社も2016年後半に入って販売が過去最高レベルになったとうことです(写真は日経電子版から)。

資産デザイン研究所で主催している投資用不動産のセミナーも申込みのスピードが早くなっています。追加開催要請が多いので明日のメールマガジンでも新しいセミナーを募集する予定です。

以前のブログで、なぜアパートは空室なのにマンションは満室なのか説明しましたが、これは投資用の物件の話です。今回はマンション業界だけにフォーカスしてみました。すると、居住用(マイホーム)と投資用では価格の動きに違いがあり、新築と中古でも購入行動に違いがあることが見えてきます。

契約率が低下して、販売戸数が減っているのは「新築」の「マイホーム」です。このマーケットで購入するのは住宅ローンを組むことができるサラリーマンが中心になります。住宅ローンの返済は、自分の収入から支払うことになりますから、返済可能額は年収によって決まってきます。また、自分で住むことを念 頭に置いていますから、賃貸利回りといった尺度は持っていません。物件比較は行いますが、最終的には自分が無理なく買えるかどうかが判断材料になるのです。

販売が好調なのは「中古」の「投資用物件」です。このマーケットもサラリーマンが中心という点は同じですが、不動産担保ローンの返済は自分の仕事からの収入ではなく、家賃から充当することになります。本人の属性も審査の対象になりますが、どこまで買えるかは家賃とローン返済額の比較から考えることになります。投資家の最終判断は賃貸利回りや、キャッシュフロー(手取りの家賃からローン返済を差し引いた手残り)です。

東京都心では不動産価格が上昇しているのに、仕事の収入が頭打ちになるとマイホームを購入する人たちは、手が届かないようになってしまいます。これが新築マンションの販売が低迷している理由だと思います。

東京都心の投資用の中古ワンルームも同様に価格上昇していますが、不動産担保ローンの金利も低下しており、借入期間を長く取ったり、頭金を多めに入れれば、キャッシュフローをプラスにすることはまだ可能です。金融商品の利回りが低下している中、投資商品としての相対的な優位性が注目され、それが販売好調につながっているのだと思われます。

アパートの空室率の上昇や、新築マンションの契約率の低下から「日本の不動産のバブル崩壊」と騒ぐ人がいますが、市場をもう少し詳細に見ていくと別の世界が見えてきます。今後金利の急上昇や金融機関の融資姿勢の変化といった借入サイドの急激な変化が無ければ、現状が当面続くと想定しています。

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※内藤忍、及び株式会社資産デザイン研究所をはじめとする関連会社は、資産配分などの投資アドバイスは行いますが、金融商品の個別銘柄の勧誘・推奨などの投資助言行為は一切行っておりません。また投資の最終判断はご自身でお願いいたします。


編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2016年10月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。