蓮舫議員とメディアの奇妙な関係 --- 山岡 鉄秀

寄稿

民進党代表選前に配信されたロイターの蓮舫氏のインタビュー(引用:アゴラ編集部)※広告部分は消去しています。

朝日新聞が慰安婦問題で誤報を認めて社長が謝罪してからも、英語版では「強制連行と性奴隷」を想起させる表現を発信し続けていることを私は複数の言論誌で指摘してきた。具体的には、慰安婦問題に関する英文記事には、内容に関係なく「慰安婦とは第二次大戦中に日本軍兵士に強制的に性行為をさせられた女性たちの婉曲的な呼び名である。その多くは朝鮮半島出身だった」という文章を挿入している。たとえ、杉山外務審議官が国連で慰安婦の強制連行や性奴隷化を明確に否定したことを伝える記事でも、機械的に前述の文章を挿入する。日本語版には一切登場しない。つまり、英語版にのみ機械的に追加する「足し算作戦」である。

さらにこの度、「引き算」のケースを発見した。2016年8月17日付朝日新聞デジタルに、「インタビュー:アベノミクスは行き詰まり、年金運用は修正必要=民進党・蓮舫氏」という記事が掲載された。これはロイターのインタビュー記事の転載だから、朝日独自の記事ではない。内容はタイトルにあるとおり、党首選に立候補した蓮舫議員がアベノミクスを厳しく批判する、というものだ。「円安誘導で輸出企業を支援することによるトリクルダウン効果や、公共事業重視の財政出動は限界に来ている、これからはお金を人に向けて使うことで個人消費低迷の原因になっている将来不安を解消すべき」という内容。「年金の株式運用比率を現在の50%から元の25%に下げるべき」とも主張しているが、特に目新しいものではない。

しかし、同じ記事を朝日新聞デジタルの英語版で読むと、印象が異なる。日本語版からはすっぽりと落ちている部分があるからだ。そして、その部分が実はこの記事の中で大きな位置を占めている。その部分の英文と、和訳を下記に示す。

Renho, a former TV announcer born to a Taiwanese father and a Japanese mother, also criticized Abe for failing to express remorse over Japan’s wartime aggression on the anniversary of Tokyo’s defeat in World War II, a stance that also rankles with Asian neighbors China and South Korea.

台湾人の父親と日本人の母親を持ち、元テレビアナウンサーの蓮舫は、第二次大戦の全国戦没者追悼式で戦時中の日本の侵略行為について自責の念を表明せず、中国や韓国を傷つける安倍のスタンスをも批判した。(山岡訳)

She said a Democratic government would not sharply shift Japanese foreign policies centered on Tokyo’s alliance with Washington.

彼女(蓮舫)は、民進党が政権を取っても、日米の外交関係を大きく変更することはないと語った。(山岡訳)

However, she expressed dismay at Abe’s remarks at a war memorial ceremony on Monday when he did not mention remorse for Japan’s wartime military aggression, contrasting them with Emperor Akihito’s comments the same day.

“In the context of the emperor’s expression of `deep remorse` two years in a row, (for Abe) to excise the expression of ‘deep remorse’ used by past premiers made me feel strongly that something was wrong,” Renho said.

しかし、彼女(蓮舫)は月曜日の全国戦没者追悼式において、天皇陛下のご発言とは対照的に、安倍首相が日本の侵略戦争について自責の念を述べなかったことに失望を表明した。

「2年連続で天皇陛下が深い自責の念を表明されるという背景で、安倍首相が前任者たちが表明した深い自責の念をスピーチから省いたことに‘何かがおかしい’と強く感じる」と蓮舫は述べた。(山岡訳)

このように、安倍首相の全国戦没者追悼式におけるスピーチについての厳しい批判が記事の前半と後半に2回も出てくるのだから、この件が蓮舫氏にとって重大な意味を持っていたことが明らかだ。それにも拘らず、日本語の記事から完全に抜け落ちているのはどうしたわけか?蓮舫氏に対する反発を招く可能性を予想して、意図的に排除したという印象を持たれても仕方がないのではないか?

よく見ると、この簡略版日本語記事も、ロイターからの転載だった。つまり、ロイターの英語記事がオリジナルで、そのオリジナル記事をロイターの日本人記者が日本語版用に編集して配信した。その結果、朝日の英語版はロイターの英語版そのままに、朝日の日本語版はロイターの日本語版そのままになっており、印象の異なる記事が日英で並立している。

我々一般読者は通常、同じ記事の英語版と日本語は言語が違うだけで、同じ内容だと思い込んでいる。しかし実際には、意図的に足し算や引き算が行われているのだ。これはとうてい紙面の都合とは思えない。なぜ蓮舫氏が吐露した心情をそのまま日本の読者に伝えないのか、不思議である。

ロイターには編集権があるとはいえ、読者としての率直な疑問だ。この疑問をロイターに送ってみたが、現時点で回答はない。英語版と日本語版に大きな差異があるべきではない。あるがままに伝えるべきだと考えるのは私だけだろうか?

AJCN代表 一般社団法人日本平和学研究所 山岡鉄秀