豊洲移転問題と戦前の日本、この2つに共通する日本的「空気」とは?

田原 総一朗

田原総一朗築地市場の豊洲移転について、次々に疑惑が噴出している。とくに、建設中の豊洲市場で盛土がされていなかったことが大きな問題になった。豊洲市場の主要建物の下にあるはずの盛土がなく、コンクリートの空間になっていたのだ。さらに、その地下空間に溜まった水からヒ素やベンゼンなどが検出されている。いったい、なぜこんなことになったのか。

僕が司会をしているBS朝日の番組「激論!クロスファイア」に、建築エコノミストの森山高至さんと元東京都知事の猪瀬直樹さんに出演してもらった。猪瀬さんは、石原慎太郎知事のもとで副知事も務めるなど、都政をもっとも知り尽くした一人といえよう。

まず盛土の問題についてだ。森山さんは、この問題の原因は、「土木と建築の担当の連携が悪かった」ということになるのではないかと言う。盛土は土木が担当だが、その上の建物は建築の担当だ。理屈はわかる。お役所らしい縦割りの弊害だろう。だが、これだけ大きなプロジェクトだ。そんなことで許される失態ではない。

当時の市場長も、発注書にサインをしながら、「盛土しないのは知らなかった」と言う。専門用語が並ぶ文章を理解していなかったのだろうか。しかし発注者のトップであれば、そんな言い訳は通用しない。

なにより、費用を負担する都民にも変更を知らしめていなかったのだ。「連携が悪い」では済まされまい。いずれにしても、設計の変更はされながら、責任の所在がはっきりしていない。

今回の市場移転問題では、ほかにも重大な数々の問題が浮かび上がっている。まず建設工事の落札率だ。豊洲新市場の主要3棟の落札率は、それぞれ青果棟が99.95%、水産仲卸売場棟が99.87%、そして水産卸売場棟が99.79%だ。きわめて不自然な数字である。はっきり言えば、談合があったとしか思えない。「汚染の問題にばかり目が行っているが、実はこちらのほうが大きな問題」と猪瀬さんは話していた。

さらに、かかった費用である。当初の予定より、建設費が3倍近く跳ね上がっているのだ。「資材価格の高騰はあるにしても、3倍も上がるのはあり得ない。どんな人たちが背後から影響を及ぼしたのか」と、さらに猪瀬さんは重ねた。「議会の構造に問題があるわけだ」と僕がいうと、猪瀬さんはただ苦笑いをした。

そもそも汚染されているために、東京ガスが売り渋った土地だ。それをなぜ、わざわざ買ったのか。

購入した建物や機械などが欠陥品だった場合、買い主は売り主に対して、損害賠償を請求したり、契約を解除したりすることができる。これを売り主の「瑕疵担保責任」という。法律上、当然に買い主に認められている権利だ。たとえ、故意や過失がなくても責任を問える。

ところが、東京都は「瑕疵担保責任」の免責を条件にしてまでも、東京ガスから売ってもらっているのだ。この点について、もう少し調査すべきだ。とにかく、謎だらけである。

それにしても、これだけの大きなプロジェクトで、責任の所在がはっきりしないとは、いったいどういうことなのか。僕は、太平洋戦争中の政府や日本陸軍を思い起こす。日本的な「空気」が働いているのではないか。築地市場の移転問題をみるとき、「組織と空気」の怖さをあらためて思うのだ。

一刻も早く、東京都は問題を洗い出して、その解決プログラムをきちんと示さなければならない。小池都知事のプロジェクトチームに期待したい。


編集部より:このブログは「田原総一朗 公式ブログ」2016年10月7日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた田原氏、田原事務所に心より感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「田原総一朗 公式ブログ」をご覧ください。