オクトーバー・サプライズ第2弾で、有力共和党議員がトランプ支持撤回

米大統領候補第2回討論会を9日に控え、共和党の米大統領候補であるドナルド・トランプ氏を狙ったオクトーバー・サプライズは止まりません。

第2弾は8日、CNNがスッパ抜きました。1997年から17年にわたる過激なラジオ司会者で知られるハワード・スターン氏とのインタビューで、女性に対するあからさまな侮蔑発言がリークされたのです。こちらに列記するのもおぞましいものがありますが、例えば交際する女性は35歳までと言及し、自分がセレブリティなので女性は自分にどんな奉仕もすると豪語し、生理中の女性との性行為経験まで暴露する有様です。個人的に度肝を抜いたのは、自慢の長女イヴァンカの美貌を吹聴した上にスターン氏の問いに応じ「ああ、娘をアマ(piece of ass、性的な意味を込めた女性の蔑称)って呼んでいいぜ」と言い切ったという事実です。開いた口が塞がりません。

これには、妻のメラニア氏も声明で「不快(offensive)」と厳しい言葉を突きつけます。もちろん「主人には思いやりの心があり、リーダーたる精神を備えています。私たちの国と世界が直面する重要な問題に集中し、私のように彼の謝罪を受け止めて下さい」と訴えるのも忘れませんでしたが。

トランプ候補本人は、当然ながらツイッター動画で謝罪の意を表明しました。「私自身を反映するものではない。そう申し上げた上で、間違いであり謝罪する」。NY時間で9日の午前10時半の段階で11万3223件の”いいね”と5万832件のリツィ—トは、通常の倍以上に及びます。また、撤退の可能性についても全力で否定していました。


(出所:Twitter

ピュー・リサーチの調査では、若い層を中心に女性の間でトランプ候補の支持率が低いことが分かっていました。投票率自体、女性が男性を上回り過去2回の米大統領選では女性票が響いた実体を踏まえると、今回の打撃が将来的に共和党へ与えるダメージは非常に大きい。そうした事情を重く受け止めたのでしょう。2008年に米大統領候補だったアリゾナ州の上院議員であるジョン・マケイン氏が米大統領選でトランプ候補に投票しないと明言しました。その他では ケリー・アヨット上院議員(ニューハンプシャー州)、マーサ・ロビー下院議員(アイダホ)、マイク・クラポ上院議員(アイダホ州)、ジェイソン・チェイフェッツ下院議員(バージニア州)、 バーバラ・コムストック下院議員(バージニア州)などが続きます。

さらに共和党からは、以下の上院議員がトランプ候補への辞退を呼びかけています。共和党上院でナンバー3のベン・サッセ上院議員(ネブラスカ州)のほか、マイク・クラポ上院議員(アイダホ州)、ジェフ・フレーク上院議員(アリゾナ州)、マイク・リー上院議員(ユタ州)、ジョン・スーン上院議員(サウスダコタ州)。ただし、サッセ議員とフレーク議員は始めからトランプ候補に支持していませんでした。

2016年の予備選を戦ったメンバーからも、辛辣な言葉が飛び出しています。激戦州でありトランプ候補が本選を制する上で要となるオハイオ州のジョン・ケーシック州知事は支持できないしすべきでない」との見解を表しました。マルコ・ルビオ上院議員(フロリダ州)やジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事も、ツイッターで否定的なコメントを展開しています。

問題は、トランプ候補が辞退したらどうなるのか?

共和党全国委員会(RNC)の規則では、候補者の死亡や辞退に備え候補者を差し替える条項があるといいます。今のところトランプ候補は辞退しない意志を強調しているため、辞退はないでしょう。一方でRNC12条では多数決で規則を変更できるといいますから、理論上はトランプ下ろしが可能となりペンス副大統領候補が繰り上がるシナリオが考えられます。しかし、厚いトランプ支持層を踏まえれば共和党が強硬手段を講じる可能性は低い。

アメフトでいう大逆転を狙ったロングパス(Hail Mary)としては、本選での選挙人の投票行動が挙げられます。カリフォルニア大学アーバイン校のリック・ヘイセン教授によると、本選で選挙人がトランプ候補に投票しないウルトラCが可能なのだとか。例えばクリントン候補に投票した数がトランプ候補の数を下回りどちらも過半数の270に届かず、かつ選挙人がトランプ候補以外に投票し、下院で共和党が多数派を獲得できれば別のトランプ候補以外を大統領に指名する余地が生まれるというわけです。法律で予備選で勝利しなかった候補に投票した場合に罰則を受けるリスクがありますが、下院が共和党を握る事情からお咎めなしとなる公算なんだとか。

いずれにしても、RNCのプリーバス委員長は第2回討論会の準備にトランプ候補をお手伝いしているとのニュースが報じられており、トランプ氏に辞退を促す気配はありません。ひとまず、第2回討論会でトランプ候補がダメージコントロール能力を発揮できるか、お手並み拝見ですね。

(カバー写真:Matt Johnson/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年10月9日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。