サイクス=ピコ協定とクルド人問題は関係ない

(現代ビジネス)シリア紛争のカギを握る「クルド人」とは、どのような民族なのか?
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49834

だから、サイクス=ピコ協定とクルド人問題は関係ないんだって。フサイン・マクマホン協定ともバルフォア宣言とも、つまり「三枚舌外交」とも、関係ない。地図見たらわかるでしょ。フサイン=マクマホン協定は「アラブ地域」の話をしていて、バルフォア宣言はパレスチナの話をしている。これらにアナトリア東部のクルド人問題は関係ない。クルド人問題とは別のところで別の話してるんだよ。

そもそも「オスマン帝国の中には、クルド人の国、クルディスタンがあった」などと勝手にクルディスタンを建国させてしまっているのはお詫びして訂正すべき次元の間違い。

クルド人問題が関係するのはセーブル条約(1920)とローザンヌ条約(1923)。むしろウィルソン米大統領が民族自決を掲げてクルド人やアルメニア人の独立を支持する姿勢を見せながら、議会が邪魔して米国が国際連盟に入らず委任統治も引き受けなかったことが、クルド人が国を得られなかった問題については大きな原因となっている。

これは現在の米国の世界の中での立ち位置の問題にもつながる。米国の内向き志向がもたらす帰結や、大統領と議会の分裂、あるいは民主主義のブレが結果的に国外でもたらす影響など。

また、ではクルド人のゲリラを支援してトルコと戦わせればよかったのか、といえばそうも言えないことは、今のシリアやリビアやイエメンを見れば容易に想像がつくはずだ。クルド人を独立させればよかった、英仏が嘘をつかなければ当然独立できたはずだ、などと論じることはできない。

しかし『サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』でも、その他の論説でも、何度でも書いてきたが、結局、こういう「どこかで聞いたようなことをつなげて書いて、何かを叩いてスッキリ」という人たちの話の方を、官庁系保守派のお偉いさんから、大学で周囲に合わせて左っぽいことを言っている人たちまで、実によく信じているのが恐ろしい。

多くの人が信じそうなことを書くのがうまいライターというのがいるのだろうが、それよりも、物事をよく考えない、考えられない人たちが、本来なら物事をかなり考えないといけない仕事についてしまっていることが問題。日本が戦争に負けた理由が分かる、といろいろな会合で思い知らされる。


編集部より:この記事は、池内恵氏のFacebook投稿 2016年10月13日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像はWikipediaより引用)。転載を快諾された池内氏に御礼申し上げます。