資本主義の先

少し前の日経の「十字路」に法政大学、渡部亮教授の「ポスト資本主義の時代」と題したコラムが掲載されていました。ざっくりいうと資本主義は近年、格差や資産バブルなど問題点が指摘され、グローバル化や規制緩和も限界に達し、躍動感が消滅した。これは異次元の体質転換であろう。AIやフィンテックなどはポスト資本主義との整合性を考慮すべきだろう、と結んでいます。

人々は共産主義に対する資本主義という言葉に勝利者としての自負を持っており、その勢いが無くなることは自己否定をしているように感じます。資本主義の終焉という話題は私が記憶しているだけでも過去20年近く、何か問題が生じると必ず降りかかってくるお題目であります。しかしながら、過去において「終焉」することはなく、資本主義社会はより強靭な体質を作り上げるために様々な工夫が凝らされてきました。

アメリカに対するグローバル経済圏を作る目的で生まれた「ユーロ」はその一つでしょう。中国やロシアが市場主義を取り込んだのも資本主義を後押ししました。アメリカ企業は自国内での生産から他国の企業に資本参入する形で企業の発展を目論みました。いわゆる企業買収は規模の拡大と巨額化が進み、資本のチカラで弱小企業を淘汰してきました。

格差とはマネーに長けた人がゲームの如く、儲け、節税できることを意味しました。企業だけではなく、個人もパナマ文書に見られるような節税対策に走ります。ドナルド トランプ氏は大統領候補でありながら過去の損失を利用した節税で税金を長年払っていないことが判明しました。これは脱税をしたわけではなく、合法的、かつ巧みにその制度を利用した点で賢い人間だけが得をする社会を作り出した典型例とも言えます。

一方、社会はこれらの伸びきった資本主義社会の歪みに対して声を上げ、規制を加え始めました。

英国はEUからの離脱を表明し、TPPは暗礁に乗り上げています。カナダではバブル化する不動産価格抑制のため、外国人税、非居住住宅への税といった対策を企てます。人々は格差に声を上げ、巨額の報酬に待ったをかけます。

アメリカの優等生銀行、ウェルスファーゴで起きた不正口座事件で同社のCEOは報酬41億円を返上するそうですが、何が何でも成績を上げ、会社の利益を増やし、その経営者は天文学的な利益を得ることに人々は呆れ、疲れてきたように思えます。

金利を下げても物価は上昇しない、というシナリオを黒田総裁は就任した2013年に想像できたでしょうか?あの時の自信あふれる顔つきとその発言からは現在起きていることは明らかに想定外でありましょう。

私が感じる近年の社会はルールと規制でがんじがらめ過ぎる社会となった点です。日本の税務当局は高額所得者や資産をもつ人から如何に税金を取るか、そして持てる人は如何に逃げるか、そのいたちごっこの結果、相続税から海外資産に至るまで新しいルールが次々と生まれ、いまや専門家ですら分厚い書類と首っ引きにならないと適用と非適用がわからなくなってきています。

こんな社会はおかしい、もっとシンプルライフを実現しよう、という声は当然生まれてくると思います。それこそ「日本シンプル党」でも立ち上げたら自民党も真っ青になるかもしれません。

ポスト資本主義という言葉は受け入れたくないけれど今のあり方も明らかにずれてきていることは万人が認めるところかもしれません。そしてそんなこと、わたしにゃ、関係ないと悠然と過ごす多くの国民とのギャップがどんどん広がるこの社会の行く末は見えにくくなってきたのでしょうか?

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 10月13日付より