英治出版 岩田大志さんを悼む

僕が最初に出した本が、『「社会を変える」を仕事にする』というもので、英治出版という出版社さんが出してくれた。

僕は本というのは、書けば終わりだと思っていた。書き終われば、出版社さんが本にして、勝手に売ってくれる、と。

そんなふんわりした僕に、営業の岩田さんはこんなようなことを言った。「本は、本屋さんが棚に並べてくれて、お客さんの目にとまって、手にとって、買ってもらって初めて読んでもらえるんだよ。」

そして僕は岩田さんと一緒に、都内の本屋さんを回った。そして岩田さんに言われて、一生懸命話した。

「よろしくお願いします。今度こういう本を出したんです」
「こういう思いで、書きました。良かったら、この目立つ棚に置いてください」
「POPもつくってきました。ぜひ置いてください」

そうやって本屋さんを回って、ものすごくいろんなことに気づかせてもらった。

当たり前だけど、本って本屋さんに置いてもらえないと、買ってもらえないこと。

本屋さんのスタッフの方は本が大好きで、自分が好きな本は、良いところに置いてくれること。

著者の思いが本屋さんのスタッフに伝わると、棚も変更してくれること。

なにより本屋さんは本を心から愛していること。

今まで本屋さんに行っても、本屋さんのスタッフの人たちは、見えていなかった。
そこにいる、本を熱く愛している人たちが、本を売っていることは、見えていなかった。

本を出して、初めて知った。いや、教えてもらえたのだ。営業の岩田さんに。

岩田さんと一緒に、足を棒にして、都内の主要な本屋中を歩いた。
歩きながら、いろんな話をした。

本は、著者、編集の人、営業の人、本屋さん、本当にいろんな人たちの思いで作られている。
一冊一冊が大切。出会いの綾の中で生まれたもの。
だから、一人でも多くの人に手にとってもらって、そして本を通して著者と読者は繋がる。
本に関わる、というのは、そういう素晴らしい仕事。

今でも昨日のように思い出す。

そんな岩田さんは、12日に突然、くも膜下出血で逝った。
41歳。早すぎる。もっと教えてほしかった。良い本のことを、たくさん。

僕が今度解説を書く本のために、また本屋さんに営業に行ってくれるはずだった。
それなのに。

ああ、岩田さん。あなたが教えてくれたことは、一生忘れない。
これから出す、一つ一つの本に、魂を込めていきます。書くだけじゃない。本屋さんに感謝して、一冊一冊、丁寧に売っていくことで、読者と繋がっていきます。

だからどうか、安らかに。
そしてまた天国で、本屋さんを回りましょう。
足を棒にしながら。いっぱい読んでくれる人がいるかな、ってウキウキ笑いながら。


編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2016年10月20日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。