11月の4者協議に向けて―都庁とIOCの努力

上山 信一

バッハ会長と会談した小池知事(都庁サイトより)

調査チームは10月末に報告をまとめる。そこでは事前に公表した通り、「選択肢の絞り込み」を行う。ちなみに都政改革本部のオリンピック見直しの目的はオリンピックの成功である。予算削減だけを目指しているわけではない。ちなみにバッハ会長と小池知事も「11月に4者で公開討議をやる」と合意し、小池知事は「月末は複数案を出す」とおっしゃった。調査チームは選択肢を絞り込んだうえで、それぞれのメリットとデメリットを整理する予定である。

なお、調査チームは今までは主に既存施設を評価してきた。特にコストや各施設のレガシー計画(後利用がどれくらいあるのか。国際大会が今後も誘致できるのかなど)を詳しく見てきた。その結果、現行計画(海の森、アクアティックセンター、有明アリーナなど)には程度の差はあるが見直し余地ありと指摘した。

さて、今後だが月末の知事の判断がでたら検討の主体は都庁となる。今後は調査チームの特別顧問、特別参与とオリパラ準備局によるプロジェクトチームが主役となる。

現行の施設計画の修正案(同一立地の場合の規模縮小や仮設化など)はプロジェクトチームである程度は出せるだろう。しかし、代替会場への移転については都庁PTだけでなくIOC、組織委員会との調査が必要だろう。

施設計画の修正案や代替会場の妥当性は次の視点で評価し、最終的には総合判断となる。

(オリンピックの視点)
①オリンピックの規準に沿った競技施設かどうかの適性確認
②大会運営面からの評価(警備、選手村、放送用インフラなど)
③復興五輪への意味合い

(納税者の視点)
④コスト(恒設、仮設ともに)
過剰な設備になっていないか、割高な材料を使っていないか、入札・契約は妥当で公正か。
運営費を含めた絶対額は妥当か。

⑤レガシー計画

恒久施設とする場合、後利用計画が妥当でないと税金は投入しにくい。施設ができることでそのスポーツがどう発展するか、今後も国際大会が誘致できるかなどが評価される。ちなみにレガシー計画は、血税を預かり、使う自治体が作る。絶対に競技団体任せにしてはならない。そして住民が納得できるレガシー計画が描けない場合は仮設にする、つまり終わったら壊して撤去する。維持費もかからず合理的だ。

現行計画の施設は、①②はほぼ満たしている。だが③④⑤は、小池さんが登場するまではあまりチェックされてこなかった。何かにつけて①②の「IOCいわく」が優先され、それで④のコストが膨らんだきらいがある。またそのプロセスも国内、国際の競技団体と関係者だけで協議され、税金を使うのに情報公開が足りなかった。現行計画については遅ればせながら、そのチェックをやる。

ちなみに新たに提案する代替会場は、過去に国際大会を経た会場なら①はおおむね満たしているがオリンピックの専門家による精査が必要だ。また②も専門家を交えた検討が必要である。①②は要するにオリンピックの規準にあうかどうかだ。

しかし①②といえども、④のコストとのせめぎあいがあり、IOCと自治体の協議が必要である。IOCには妥協できることとできないことがあるだろう。開催都市の予算にも限りがある。これまでの大会でもすべてがIOC規準を満たしてきたわけではない。相互に努力し、対話を重ね妥協点を見出す努力が必要だ。その意味でバッハ会長がいままでのように何でも組織委員会経由とせず、今回の見直しでは直接、都庁がIOCと協議できる場を設けたことは評価したい。

ちなみに小池改革では、「都民ファースト」が要求され、これらは⑤のレガシーの妥当性で問うことになる。また「ワイズスペンディング」は上記の通り、④と①②の各条件のせめぎあいとなる。ともに大会の成功を目指しつつ、IOC側の要求も都側の要求もどちらも絶対条件としないということだろう。なお、これらの見直しは全てのプロセスと結果の「情報公開」が必要になる。


編集部より:このブログは慶應義塾大学総合政策学部教授、上山信一氏のブログ、2016年10月23日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた上山氏に感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、上山氏のブログ「見えないものを見よう」をご覧ください。

※10月24日18時30分、修正加筆しました。