国連内でセクハラが多発

長谷川 良

ウィーンに本部を置く国連工業開発機関(UNIDO)内でセクシュアル・ハラスメントが多発している。国連内のセクハラに対して、ウィーン国連職員評議会は「泣き寝入りせずに報告するように」と犠牲となった職員に呼びかけているほどだ。

▲UNIDOの本部も入っているウィーンの国連機関の正面入口(2013年4月撮影)

UNIDO職員は、「過去12カ月間で50件以上のセクハラが起きている」という。犠牲者リストとか、記述された事件簿があるのか、という当方の質問には、「そんなリストなど存在しないが、職員評議会などに通達された件数だ」というのだ。実数はそれ以上と考えて間違いないだろう。

昨年1年間で国連の旗の下で従事する平和軍を含む国連職員による性的虐待で被害を受けた女性や子供たちは99人に及ぶという報告は聞いたことがある。国連組合は今年6月、犠牲者に対して、「性的虐待について批判の声を挙げるべきだ」と呼びかけている。具体的には、「性的虐待、職権乱用を絶対に許さない姿勢を明確にし、問題が生じた時は公正な調査を実施し、犠牲者が報告しやすいシステムを作り、効果的なハラスメント防止を行うべきだ」と主張している。

ウィーンのUNIDO職員評議会は職員、コンサルタント、関係者に倫理条項(Code of Ethical Conduct)を忘れないように求めている。

特に、同条項3章3節に特別の注意を払うように求めている。
the Staff Council wants to draw particular attention to Section III, paragraph 3, of the Code。
「どのようなハラスメントも人間の尊厳への攻撃だ。人はハラスメント・フリーの環境を願う権利がある。セクハラは違法行為だ」というわけだ。

性的ハラスメントを受けた国連職員には倫理条項に従って対応の道がある。例えば、上級倫理官(Senior Ethics Officer)、人事労務管理(HRM)、内部監視倫理事務局(IOEO)に報告できる。職員評議会議長や職員カウンセラーに指導を得ることもできる。もちろん、コンフィデンシャル(秘密)扱いで、その報告は部外には出さないことになっている。

国連内は一種の治外法権下にある。ウィーン警察も国連内でセクハラが生じたとしても、国連側からの要請がない限り、捜査権も拘束権もない。そのうえ、国連職員には一種のファミリー意識が強く、内部の恥部を外に公表することを避けようとする傾向が強い。

実例を紹介する。国連人道問題調整事務所(OCHA)職員アンダース・コンパス氏は2014年、フランス軍や国連部隊が現地で未成年者へ性的虐待を繰り返していると報告したが、国連側は事件の調査を十分行わず、調査の幕を閉じ、逆に、コンパス氏を内部文書漏えいの職務規定違反で訴え、停職処分している。メディア報道によれば、同氏は今年6月、辞職した。

ウィーンの国連職員評議会は職員に、「犠牲となった職員は積極的に訴えるべきだ」とアピールしている。ただし、性的ハラスメントの場合、職場のボスが部下の秘書の女性職員らに対して犯すケースがほとんどだ。それだけに、職場を失うことを恐れて、口を閉じる職員が出てくる。
国から出向してきたエリート職員とは違い、通常の国連職員の場合、雇用年数は契約によって異なる。契約の延長を願う職員の場合、直接の上司との人間関係がどうしても大切となる。だから、上司による部下へのセクハラの解明が一層、難しいわけだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年11月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。