米10月雇用統計、12月利上げのゴーサイン送る

yasuda1104

米10月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比16.1万人増と、市場予想の17.8万人増を下回った。前月の19.1万人増(15.6万人増から上方修正)にも届かず、5ヵ月ぶりの低水準。ただし、過去2ヵ月分は4.4万人の上方修正(9月分が15.6万人増→19.1万人増、8月分は15.6万人増→16.7万人増)となる。8〜10月期平均は17.6万人増となり、2015年平均の22.9万人増を下回ったままだ。年初来も18.1万人増と、2015年のペースに及ばない。

NFPの内訳をみると、民間就労者数が前月比14.2万人増と市場予想の17.0万人増を下回った。9月の14.4万人増(16.7万人増から上方修正)に届かず、5ヵ月連続で増加したなかで最も低い伸びに。民間サービス業が14.2万人増と、前月の18.8万人増(15.7万人増から上方修正)以下に。セクター別動向では教育/健康がトップに立ち、前月の2位から浮上した。逆に前月1位だった専門・サービスは2位に落ち、3位に政府が入った。米10月チャレンジャー人員削減予定数の採用件数で明らかになった通り、輸送などホリデー商戦に直接関わるセクターは前月から鈍化し小売に至っては減少した。詳細は以下の通り。

(サービスの主な内訳)
・教育/健康 5.2万人増>前月は2.9万人増、6ヵ月平均は4.6万人増
(そのうち、ヘルスケア/社会福祉は3.9万人増>前月は2.2万人増、6ヵ月平均は4.1万人増)
・専門サービス 4.3万人増<前月は6.7万人増、6ヵ月平均は5.1万人増
(そのうち、派遣は0.6万人増<前月は2.3万人増、6ヵ月平均は0.8万人増)
・政府 1.9万人増>前月は1.1万人減、6ヵ月平均は2.0万人増

・金融 1.4万人増>前月は0.6万人増、6ヵ月平均は1.4万人増
・娯楽/宿泊 1.0万人増<前月は1.5万人増、6ヵ月平均は2.3万人増
(そのうち食品サービスは1.0万人増、2015年平均の3.0万人増から減速)
・輸送/倉庫 0.8万人増>前月は0.9万人減、6ヵ月平均は0.5万人増

・卸売 0.6万人増<前月1.0万人増、6ヵ月平均は0.3万人増
・その他サービス 0.6万人増<前月は1.5万人増、6ヵ月平均は0.6万人増
・情報 0.4万人増>前月は0.1万人増、6ヵ月平均は0.1万人減

・公益 0.1万人増>前月は±0万人、6ヵ月平均は±0万人
・小売 0.1万人減<前月は2.2万人増、6ヵ月平均は1.3万人増

財生産業は±0万人と、前月の1.0万人増から転じた。米10月ISM製造業景況指数が2ヵ月連続で分岐点に乗せ雇用も4ヵ月ぶりに分岐点を回復したが、製造業が足を引っ張っている。建設は2ヵ月連続で増加した。米10月チャレンジャー人員削減予定数と足並みをそろえ、鉱業は前月の横ばいから減少に転じた

(財生産業の内訳)
・建設 1.1万人増<前月は2.3万人減、6ヵ月平均は0.4万人増
・鉱業/伐採 0.2万人減<前月は±0万人、減少トレンドを脱却(石油・ガス採掘は200人の増加と減少基調にサヨナラ)
・製造業 0.9万人減>前月は1.3万人減、6ヵ月平均は0.8万人減

NFPは、5ヵ月ぶりの低水準。

nfp

(作成:My Big Apple NY)

平均時給は前月比0.4%上昇の25.92ドル(約2,670円)と前月の0.3%(0.2%から上方修正)を超え、市場予想の0.3%も上回った。前年比では2.8%上昇し2009年6月以来の力強さを遂げた。

週当たりの平均労働時間は34.4時間と、市場予想及び前月に並んだ。財部門(製造業、鉱業、建設)の平均労働時間は前月の40.3時間から、40.4時間へ延びた。それでも、2007年以来の高水準に並んだ2014年11月の41.1時間が遠い。

失業率は9月の5.0%を下回り4.9%と、6〜8月の水準へ回帰した。リーマン・ショック以前にあたる2007年11月以来の水準へ急低下した5月の4.7%で、改善にブレーキが掛かったようだ。9月米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーによる2016年見通しを超えた水準も保つ。失業率の低下は、マーケットが注目する労働参加率が62.8%と9月の62.9%を下回り、7〜8月の水準へ戻したことが大きい。なお、2015年9〜10月は62.4%と1977年9月以来の低水準だった。

失業者数は前月比15.2万人減となり、前月の9.0万人増から転じ3ヵ月ぶりに減少した。雇用者数は4.3万人減と5ヵ月ぶりに減少したが、労働参加率の低下が補い失業率の改善につながった。 就業率は前月の59.8%から7〜8月の59.7%へ戻し、金融危機以前の水準を下回ったままだ。

経済的要因でパートタイム労働を余儀なくされている不完全失業率は3ヵ月連続で9.7%を経て9.5%となり、金融危機前にあたる2008年4月以来の最低を更新した。失業期間の中央値は10.2週と前週の10.3週以下となり、2008年9月以来の低水準。平均失業期間は前週の27.5週を下回り27.2週間となったが、2009年9月以来で最短だった5月の26.7週超えを維持。27週以上にわたる失業者の割合は25.2%と、2009年3月以来の低水準を示した前月の24.9%を上回った。

フルタイムとパートタイム動向を季節調整済みでみると、フルタイムは前月比0.1%増減の1億2,419万人と4ヵ月ぶりに減少した。パートタイムは0.3%増の2,773万人と、2ヵ月連続で増加。増減数ではフルタイムが10.3万人減、パートタイムは9.0万人増となる。

総労働投入時間(民間雇用者数×週平均労働時間)は伸びが鈍化したとはいえ民間雇用者数が前月から増加したほか、週平均労働時間も34.4時間で変わらず、前月比で0.1%上昇し2ヵ月連続で伸びた。さらに平均賃金の伸びが加速したため、労働所得(総労働投入時間×時間当たり賃金)は、前月比0.3%上昇し前月の0.5%に続き2ヵ月連続で上昇した。

イエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長のダッシュボードに含まれ、かつ「労働市場のたるみ」として挙げた1)不完全失業率(フルタイム勤務を望むもののパートタイムを余儀なくされている人々)、2)賃金の伸び、3)失業者に占める高い長期失業者の割合、4)労働参加率――の項目別採点票は、以下の通り。

1)不完全失業率 採点-○
今回は9.5%と7〜9月の9.7%から改善。2008年4月以来の低水準だった。不完全失業者数は前月比微減の588.9万人と2ヵ月連続で減少した。

2)長期失業者 採点-△
失業期間が6ヵ月以上の割合は全体のうち25.2%と、 2009年3月以来で最低を更新した前月の24.9%から上昇。平均失業期間は27.2週と前月の27.5週以下ながら、 2009年9月以来の低水準だった5月の26.7週を超えた水準を保つ。6ヵ月以上の失業者数は前月比0.3%増の197.9万人と3ヵ月ぶりに増加、ただし直近で最低を更新した5月の188.5万人を5ヵ月連続で上回る。

3)賃金 採点-○
今回は前月比0.4%上昇しただけでなく、前年比は2.8%上昇し2009年6月以来の力強い伸びを記録。週当たりの平均賃金は、前年同月比2.5%上昇の887.18ドル(約9万1,800円)と、9月の2.3%を超えた。ただし生産労働者・非管理職の平均時給は前月比0.2%上昇の21.72ドル(約2,240円)円で、前年比は2.4%上昇し2009年11月以来の高水準を達成した前月の2.7%から減速。週当たりの平均賃金は前年同月比2.1%上昇となり、729.79ドル(約7万5,200円)だった。管理職を含めた全体の伸びは、前月と異なり非管理職・生産労働者の賃金を上回っている

平均時給、2015年平均からは加速も金融危機前の3%台にまだ距離を残す。

hw

(作成:My Big Apple NY)

4)労働参加率 採点-×
今回は62.8%となり、9月の62.9%から低下し7〜8月の水準に並んだ。1977年9月以来の低水準だった2015年9〜10月の62.4%を上回った水準を継続しつつ、金融危機以前の水準である66%台は遠い。 軍人を除く労働人口は0.1%減の1億5,971万人と、5ヵ月ぶりに減少。非労働人口は0.5%増の9,419万人と増加に反転。労働参加率が低下したように、労働市場へ回帰する流れが一服した。

ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙は、Fed番で知られるジョン・ヒルゼンラス記者の署名による「米10月雇用統計、12月利上げへの扉を明ける(Jobs Report Sets the Stage for December Rate Increase)」と題した記事を配信。11月FOMC声明文に明記されたように、利上げへの論拠を強めた内容だと評価した。

バークレイズのマイケル・ゲイピン米主席エコノミストは、結果を受け「NFPの過去分が上方修正されたほか、平均時給の加速を受け12月利上げへの準備が進んだと言える」との見解を寄せた。12月利上げの予想を据え置きつつ、「米大統領選の結果を受けてボラティリティが急上昇する場合や米11月雇用統計が極端に弱含めば次回利上げは2017年へ持ち越しとなりうる」と付け加えることも忘れない。

——S&P500は3日までに8日続落し、2008年に発生した金融危機以来で最長の連敗記録を更新してきました。米連邦捜査局(FBI)によるクリントン候補のメール問題再調査が引き金になった事は言うまでもありません。米10月雇用統計が無難な結果で4日は反発を試みますが、週末を控えたポジション調整の一環でしょう。

問題は、アメリカ人が株安をどう捉えるか。ブルームバーグがストラテガス・リサーチ・パートナーズの調査を基に伝えたところ、1928年以降の米大統領選でS&P500が選挙直前の3ヵ月間に上昇した場合は与党が勝利する確率は86%。しかし足元でS&P500は下落しており、トランプ候補に有利だといいます。シカゴ・カブスの優勝といい、トランプ候補に追い風が吹いていますね。しかし、この株安をどう解釈するかで風向きが変わる可能性も残る。運命の女神は、なかなか移り気なようです。

(カバー写真:Thomas Hawk/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年11月4日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。