日本では第1野党「民進党」の蓮舫代表の2重国籍問題が話題となって久しい。同氏は自身の国籍を明確にせずに選挙に出馬し、参議院議員に選出されていたことが明らかになり、選挙法の違犯問題まで浮上してきている。
ここでは日本の安保問題と密接な関係がある北朝鮮人の2重国籍問題について少し紹介する。遠い将来、世界が平和となり紛争もなくなったならば、国籍も消滅するかもしれないが、現時点では国籍問題はやはり国の安全問題を無視しては論じられないと思うからだ。
2000年1月、イタリアが北朝鮮と国交を樹立したのを皮切りに、欧州連合(EU)加盟国は次々と北朝鮮と外交関係を樹立していった。同時に、欧州には欧州の国籍を有する北朝鮮人が多数生まれてきた。
韓国紙・朝鮮日報は2008年12月の段階で、北朝鮮国民で欧州の国籍所持者の数は2002年から06年間で1400人を超えたと報じたことがあった。2016年の現在、その数はもっと多いだろう。彼らの多くは脱北者だ。欧州で脱北者数が最も多い英国では、脱北者は政治難民として英国国籍を得る。北国籍はその段階で消滅するが、平壌当局が脱北者の国籍離脱申請に応じることはないから、脱北者は依然、北国籍者といえる。
脱北者が本当の政治亡命者ならばいいが、その中に工作員が紛れ込んでいた場合、問題が生じる。彼らは英国国籍者として欧州ばかりか世界を自由に駆け巡ることができる。旅行だけなら問題がないが、不法な工作活動も可能となる。欧州に殺到した難民・移民の中にイスラム過激派テロリストが紛れ込んでいたような状況だ。
現実にあった例を挙げる。駐オーストリア北朝鮮大使館には数年前まで朴カンソン商務官が駐在していた。同商務官の妻はオーストリア国籍を得ている。夫人は北外交官の娘としてウィーンに家族と住んで居た。そして成長してウィーン大学を卒業した。オーストリアでは外国人家庭の子供は、オーストリアの大学を卒業し国籍を申請した場合、国籍取得できる。そして夫人はオーストリア国籍を申請し、それを得たのだ(娘の父親もオーストリア国籍を申請したが、外交官であるため却下された)。
通常、オーストリア国籍を得るためには以前の国籍を離脱するが、確認が難しい。特に、北ではいつでも旅券を偽造できる国だ。すなわち、朴商務官の夫人はオーストリア国籍者として世界を飛び歩くことができるのだ。もちろん、国交ない日本にも入国できる。北朝鮮人の2重国籍問題が安全問題と密接に関連してくるわけだ。
少し補足するが、故金正日労働党総書記の長男、金正男氏が04年11月、パリからウィーン入りした時、同氏は自国大使館とは接触せず、2家庭とだけ会っている。朴商務官夫妻はその家庭のひとつだった。
それでは、なぜ金正男氏は3等書記官の朴商務官に会ったのか。正男氏の本当の狙いは朴商務官ではなく、朴氏の妻にあったはずだ。先述したように、朴夫人は日本や米国ばかりか、韓国にも自由に出入国できる欧州国籍者だったからだ。脱北者と異なる点は、朴夫人はオーストリア国籍を有する一方、北の工作員であることだ。
民進党の蓮舫代表の場合(台湾と日本)、多分、大きな安保問題は生じないだろうが、欧州の国籍を持つ北朝鮮人の場合、問題が生じてくる危険性が十分考えられるのだ。北朝鮮、中国を隣国に抱える日本は厳格な国境管理とともに、国籍問題への明確な対応が不可欠となるわけだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年11月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。