小池さん、ピントがずれてませんか

中村 仁

「ハネムーン期間」が過ぎた小池都知事。メディアの論調も厳しくなりつつある(都庁サイトより:編集部)

豊洲問題で責任追及が先行の愚

小池百合子都知事が懸命になって、都政に山積する問題の解決に取り組んでいます。質疑応答もそつなくこなしています。そこまではいいとして、最も重大な課題が後回しになっているような気がします。豊洲市場のように大きなプロジェクトほど、俗受けする細かなところから手をつけるのではなく、最初から大きな核心にすばり踏み込むべきです。

その象徴的な事例が豊洲市場計画、工事に関係した歴代幹部8人の処分です。人事上の措置は全容が解明された最後の段階にくるものです。小池知事は「マネジメントの欠如、責任感の欠如、チェック不足など、盛り土問題が起きた原因はあげればきりがない」と怒りました。恐らくその通りにせよ、追及で時間を空費してますね。

最優先しなければならないのは、完成している施設の安全性を真っ先に確認し、安全なら早く移転開始にもっていくことです。地下水の定期検査の結果(9回目)を当初予定の来年1月より急がせることがなぜできないのか、説明がありません。代替する方法で緊急検査することがなぜできないのか。

安全性、経済性、それから組織改革

この問題を解決する優先順位は、まず安全性の確認・対策、次に経済性・費用の検証、最後に人事・組織改革です。最後の課題が一番先にきています。それと大きな課題から真っ先に取り組むことです。

私の知人で、現役時代は大手電機メーカーの役員をやり、電気機械関係のプロジェクト、設備機器の運用に詳しく、経験もある方からメールをもらいました。「小池都政は、手続き上の責任追及ばかり先にやっている」といい、先に結論をださなければならない論点を列挙してきました。もちろん安全性を確認することが話の大前提です。

「建物の下部は全面的に盛り土をしないほうが、長期的なメインテナンスためには、事後の作業をする上で便利ではないのか」。

「全面的な盛り土をした後、地下水が上昇し、地下ケーブルや配管の維持、管理ができなくなるほうが問題を大きくするではないのか」。

「地下空間を設けた方がやはりよかったという結論にならないだろうか」。

来年1月に地下水の定期検査のデータ(9回目)が公表されます。その際、ベンゼン、ヒ素などの有害物質が環境基準を上回っていなかったら、安全性が確認されたことになります。そうなった場合、地下空間方式(コンクリートなどで土壌の表面を覆う)でも、問題がなかったことになります。それに盛り土になっている部分もあるのですから、その安全性をサンプル調査して参考にしたらどうなのでしょうか。

順序が逆で時間を空費

土壌汚染法が改正(09年)され、モニタリング空間が必要になったといいます。そのために地下空間が必要だとすれば、全面的な盛り土は始めから不可能です。あるいは、汚染防止法改正の動きがすでにあったのに、関係部局がうっかりしていて計画を決めてしまっており、責任追及をされるのが嫌なので、なし崩し的な計画変更にもっていったのか。

小池知事は「盛り土方式の当初案をだれが変更したのか」ということにこだわりました。もし、地下空間方式でも安全性に問題がないとされれば、ピントがずれていたことになります。幹部の責任追及より、こちらのほうが急務です。コンクリートで覆い、地下水がにじみ出てきたらポンプで排水すればいいように思いますがね。総工費5900億円をかけた施設を捨てるなんて考えられず、施設の利用を前提に早く不備を補うべきでしょう。

もう一つの大問題が工事費です。盛り土方式と地下空間方式のどちらが費用が少ないのか。地下ケーブル、配管など、開設後のメインテナンス費用も合算しなければなりません。こんなのは第三者に計算してもらって比較すれば、答えがでてきます。責任追及された幹部にだってコスト意識はあったはずです。地下空間のほうが安上がりであれば、無断とはいえ、計画変更には経済合理性があったことになります。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2016年11月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。