大衆支配の時代:『ドナルド・トランプ 黒の説得術』

池田 信夫
浅川 芳裕
東京堂出版
★★★☆☆


アメリカ大統領選で、ドナルド・トランプの当選が確実になった。これは(私を含めて)ほとんどの日本人にとって予想外の結果だが、最大の原因は民主党のヒラリー・クリントンがひどすぎたことだろう。結果論は誰でもいえるが、本書はこの結果を事前に警告していた著者の分析だ。

アメリカ人は、よくも悪くも単純だ。ヒラリーは複雑でわかりにくいのに対して、トランプは単純明快だ。彼の演説はツイッターのように短く、小学生でもわかる単語しか使わない。そのテクニックは、次の三つだという。

  • 挑発的で非常識なメッセージ
  • 詳細には決してふれない
  • 事実を徹底的に無視する

彼の英語は普通の日本人でもわかるが、中身は支離滅裂な雑談だ。しかし彼が歴代の大統領の中で飛び抜けてバカかというと、残念ながらそうでもない。1980年にレーガンは同じように単純な演説で有権者を魅了したが、経済は何も知らなかった。2000年のブッシュは英語が不自由だった。トランプは平均的なアメリカ人の知能に合わせただけだ。

これをポピュリズムと批判するのは容易だが、それがアメリカの民意であることも事実だ。デモクラシー(大衆支配)とは、本質的にポピュリズムなのだ。建国の父が恐れたのも、過剰なデモクラシーでデマゴーグが出てくることだった。

今まで行き当たりばったりの話をしてきたトランプが今後どういう政策をとるのかはよくわからないが、彼の日本に対する態度は1980年代の「ジャパン・バッシング」のままで、在日米軍を引き上げて日本に核武装させろと主張している。

これがそのまま実現するとも思えないが、沖縄の米軍は撤退するかもしれない。日本の実質的な「宗主国」だったアメリカに甘えてだだをこねていた「リベラル」は、彼らの主張が実現されたら中国の脅威におびえるだろう。意外にトランプは、アメリカにただ乗りしてきた戦後日本を清算するには、いい大統領になるかもしれない。