トランプ氏が「強いる」日本の自立

井本 省吾

トランプ政権誕生で在日米軍の編成は劇的に変わるのか(写真は普天間基地、写真AC:編集部)

ドナルド・トランプ次期米国大統領は、選挙演説で日本の防衛努力と防衛費負担を望んでいる。

「日本は米軍が日本に駐在してほしいなら、駐留経費を全額、支払え。それがイヤなら米軍は日本から全面撤退する」と吼えている。「自分が大事ならば、日本は核武装もすればいい」とも言っている。

多くの日本人は従来、こう考えてきた。

<米国の軍事力は圧倒的に大きく、日米同盟は片務的で良い。日本の安全は米軍に任せる。軍事基地が沖縄をはじめ全国にあっても、それで安全ならいいではないか。「思いやり予算」もドイツなどに比べて多めでも、向こうに全面的に守ってもらえるならばそれでいい。>

しかも、自民党政権が防波堤になって米国との面倒な関係を処理してきた。二重の盾に守られ、自分では安全保障について真剣に考えてこなかった。それだけ怠けていられたのだ。

だが、トランプ氏は、米国内の内向き志向に合わせ、オバマ現大統領以上に「世界の警察」の立場を降りたがっている。米軍の活動範囲を狭める可能性はある。「米軍基地はグアム、ハワイ、オーストラリア以東で十分だ」と考えているフシもある。

今や、安全保障について怠けることはできなくなった。だが、これは日本人がまともな「大人」に成長するのに好都合と考えるべきだろう。自国の安全保障を他国に任せ、考えることすらしない、というのはとても一人前と言えないからだ。

まず防衛費負担を要求されたら、これ以上は出せない、と断るべきだろう。それだけ膨大な予算を計上していることを具体的にはっきりと伝えるべきだ。

米国防総省によると、日本の米軍駐留経費の負担率は74・5%で、ドイツの32・6%、韓国の40%と比べてはるかに高い。日本の負担と基地提供なしに米国の世界戦略は成り立たない。米国防総省はそのことを十分に知っている。

さらに、日本の防衛技術やサービスの水準は世界最高であることも。

以前聞いた話だが、米国の第7艦隊の司令官は「我々は横須賀を絶対手離さない」と言ったという。なぜか? 「例えば、台湾に緊急に出動しなければならなくなった時、横須賀がないと資材・食料調達に困るからだ」。全部、自分たちで調達するのは大変な作業だが、横須賀基地で日本のスーパーに注文すれば、台湾に行く途中の鹿児島辺りで軍事物資以外のすべての資材が調達できてしまう。「これほど便利なサービスをしてくれる国は米国を含めて日本しかない。これが本当の軍事基地だ」。

食料・物資調達だけではない。戦闘機などの整備でも日本の整備サービスは抜群で、軍人たちは絶対の信頼を日本基地従業員に寄せている。

トランプ氏はそのことを知らない。日本政府職員と国防省幹部がかんで含めるように説明すれば、ビジネスマンとしての経験を積んでいるトランプ氏はすぐに理解するだろう。

それでも日本での軍事基地を減らす可能性はある。沖縄からの海兵隊の撤退などは進めるかも知れない。その際は基地を提供している地主の地代収入や日本政府による基地負担費の提供は減ることになる。

米軍基地の撤退を主張する沖縄住民は、ホンネベースでそうした事態を望んでいるのかどうか。沖縄基地の縮小も沖縄にホンネベースで「大人の対応」を迫るという点では望ましい話である。

日本は核武装を含め、自前の武装を拡充しなければならない。そのことを米国と協議することも重要だ。自立した国、国民になるためである。

日本の防衛費負担はGDPの1%ではなく、国際的には当たり前の水準である同2%とする。負担は大きいが、軍事産業の発展は日本経済の成長に貢献する。

核保有については、トランプ氏は発言を後退させる可能性が大きいが、ドイツなど西欧並みに「核シェア」を協議して行くことはできよう。

日米安保条約をより対等なものへと、日本側から言い出せるチャンスが開けるわけだ。公明党や、民進党、共産党は反対するだろうし、戦後ずっとアメリカ依存でやってきて、安全保障の自立を徹底的にさぼってきた外務省も言を左右して抵抗するだろう。トランプ当選を予測できず、当選にたじろぎ、驚いている外務省の姿はそうした長年の怠慢、現状維持にあぐらをかいてきた無残、醜悪の結果なのである。

だが、アメリカが、トランプ氏が日本に自立を要求しているのだ、となれば、日本にとって避けられない戦略、政略の整備であろう。

日本に「自立」を強いるトランプ氏の「内向き志向」を前向きに受け止めることが、今(後)の日本人にとって不可欠なのであり、望ましいことと言える。